地震・豪雨災害後に重要、鉄道「迂回ルート」の役割 在来線のネットワークはいざという時必要だ

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2019年10月の台風19号被災では、このシミュレーションが効果を発揮した。この際は中央本線の高尾―大月間が被災し、10月12日から運転を見合わせた。被害の大きかった高尾―相模湖間の上り線復旧が長引き、上下線の全線再開は28日となった。

中央本線は京浜工業地帯から石油類を山梨県や長野県に輸送する重要なルートで、輸送が寸断されると両県への影響は大きい。この際は、四日市から中央西線経由で貨物列車を運転することによりこの地域の石油枯渇を防いだ。自力で動いたり列車を乗り継いだりできない貨物輸送を滞らせることなく輸送できたのは、こういった鉄道のネットワークを生かした非常事態への備えがあったからである。

廃止の函館本線「山線」は…

同様に主要ルートが長期間不通になった例として、2000年に北海道で有珠山が噴火した際の室蘭本線がある。同線は3月29日に東室蘭―長万部間が不通となり、代替ルートとして函館本線の「山線」(長万部―小樽間)を利用した代行輸送が行われた。そのために一部駅では行き違い施設を新設しただけではなく、多くの駅でATS(自動列車停止装置)設備の付け替えを行った。迂回輸送は6月30日まで実施した。

もちろん、「山線」だけではカバーできず、航空便の増便や船舶での貨物代行輸送も行ったが、同線が重要な役割を果たしたのは確かである。

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「山線」は、北海道新幹線開業にあわせて廃止になることが決まった。JR貨物は同線を代替輸送に使用するには課題があると考えており、有珠山噴火の際はDD51形ディーゼル機関車が牽引する貨物列車が入線できたものの、現在北海道で運用しているDF200形ディーゼル機関車が入線することは重量の関係から困難であるという。20年前には鉄道による迂回輸送が実施された路線も、今やその役割を担わせようという考えはなくなっている。

ただ、鉄道はネットワークとして機能しているからこそ有益な交通機関となっている。一方で近年は全国的に災害が多発し、鉄道の被災も相次いでいる。コロナ禍による減収などの影響で鉄道は厳しい状況に置かれているが、存続議論には万が一の際に対応できる冗長性の考慮も必要ではないだろうか。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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