職人の「感覚」をすべて「数値化」したパン屋の凄み 「たった5日でパン屋になれる」仕掛け人の想い

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これまで千数百名が研修を受けたという(写真:リエゾンプロジェクト)

また、パン屋として独立するには、2000万〜3000万円の初期費用がかかるが、リエゾンプロジェクトではそれを3分の1程度に抑えられるようにした。

「パン屋の機材はかなり大きく、自分の店で使っているものは2000万円以上する。自分自身、小さい機材でおいしく焼けるはずかないという固定観念があった。しかし、最初に小規模パン屋をプロデュースすることになった時、キッチンスペースはわずか4坪。そこで小さな機材で焼いたところ、自分の店と同等のものができた」(河上氏)

パン屋の平均日商は5万円と言われているが、この4坪の店舗の初日の売り上げは15万円。機材は3分の1の価格なのに、3倍を売り上げたのだ。

こうして、国産小麦100%の無添加パン屋を、5日間の研修で、小商いとして始めるスタイルが確立した。

「おいしいパンは作るな」

「事業を新しく始める時は、大規模な投資ではなく、できるだけ小さな投資でコツコツと積み重ねていくのがいい。その点、パン屋の基本はご近所商売。近所に人が20年、30年通い続けてくれることが一番。地元の人が地元で開業するのが一番の成功事例になる」と河上氏。

フランチャイズにしなかったことで、オーナーは自分の店を自由に作ることができ、高いロイヤリティが足枷にならない。任意の団体「町の繁盛パン屋ネットワーク」に加盟すれば、経営塾や新レシピの提供、実践事例を共有することができるので、いきなり開業が心配な人のフォロー体制も整っている。

今まで千数百名が研修を受けたが、身体障害者や70代の人まで、修了証書を出せなかった人はいない。

「独立する時に、師匠に言われたのが『おいしいパンは作るな、食べ続けて飽きないものを作れ』ということ。(食パンやメロンパンなど)単品商品のみを売る専門店は、日常食ではなくお土産もの。それらとは競合せず、近所にできても売り上げに影響しない。パンは5年、10年、20年食べ続けても飽きないことが大事。飽きられないから商いが続く」

町のパン屋の在り方から、ライフスタイルやこれからの働き方、商売が見えてくる。

吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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