ウォール街が旧来の投資戦略を放棄したわけ ウクライナ戦争にインフレで確率高い予想描けず

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ウクライナでの戦争が2カ月目に入る中、ウォール街は緊張の段階的緩和から戦争の長期化まで、さまざまな結果に至る可能性を検討している。ゴールドマン・サックス・グループは1つのシナリオで、スタグフレーションに対する割安なヘッジを勧めている。ブラックロックは別のシナリオで、短期債を選好。仏アムンディは流動性の逼迫(ひっぱく)を警告している。

ロシアによるウクライナ侵攻開始からこれまで様子見姿勢だった投資家に対し、リスクヘッジを求める圧力が強まっている。多くの投資スペシャリストは、市場の方向性に賭けるハイ・コンビクション(確信度の高い)戦略を放棄していることを明らかにしている。

ブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は「われわれは地政学的な不確実性が高い状況に生きている」と指摘した。

市場の見方が一致しているのは、インフレが直ちに沈静化することはないという点だ。多くの市場関係者が流動性や取引条件がはるかに厳しくなりかねないと警告している。

欧州最大の資産運用会社アムンディのグループCIO、ビンセント・モルティエ氏は「今のところ市場の流動性状況は堅調な様子であるものの、これは注意すべき点だ」と指摘。同社はクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)やプットオプションなどのデリバティブ(金融派生商品)でポートフォリオをヘッジしている。

以下に想定されるシナリオの一部を示した。

戦争の長期化

ベアリング・インベストメント・サービシズの欧州担当チーフストラテジスト、アグネス・ベライシュ氏は「戦争の長期化は、多くの人にとって実現の可能性が高い中間的シナリオだ」と指摘。同氏の見方によれば、ドルは依然として底堅い安全資産だという。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・へーフェルCIOは、国家安全保障の重要性が高まる時代には、小・中型テクノロジー株のロング(買い持ち)ポジションが好調になる可能性があると分析した。

緊張の段階的緩和  

このシナリオでは、短期債が長期債よりも魅力的に見えるとブラックロック・インベストメント・インスティチュートは指摘。各国・地域の中央銀行は政策金利を景気抑制的な水準に引き上げるよりも、供給主導の緩やかなインフレに順応していくとの見方を示した。

 

スタグフレーションとリセッション

この1970年代型のシナリオについて議論している市場関係者は多くないが、 ゴールドマンとティー・ロウ・プライス・グループはこの状況における選択肢を分析している。ゴールドマンのストラテジスト、イアン・トゥーム氏によると、世界的なスタグフレーションに対する一段と割安なヘッジとして、スイス・フランやユーロに対するドルのロングポジションなどが挙げられるという。

株式と債券が共に下落した場合、トゥーム氏はドルに対して円でヘッジすることを選好している。円は対ドルで約6年ぶりの円安水準に下落しているものの、「リスク資産とコア金利の両方が低下した場合、優れたヘッジ」になることを同氏の分析は示唆しているという。

アイルランド銀行のセミン・パワー氏はブルームバーグTVでインフレ見通しについてコメントSource: Bloomberg

原題:

War, Inflation Force Wall Street to Ditch Age-Old Strategies (1)(抜粋)

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著者:Emily Barrett、Ruth Carson、Ishika Mookerjee

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