意外と誰も答えられない「民主主義」とは何か 混乱する世界でそれでも民主主義が必要な訳

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民主主義が何なのか、世の中に明確なコンセンサスはない(写真:Eric Lee/Bloomberg)
ロシアによるウクライナ侵攻が続いていますが、世界を見渡すとミャンマーやアフガニスタンなど民主主義が脅かされているように見える地域は多くあります。こうした中、東大教授で政治学者の宇野重規氏は、今後は時代に即して民主主義の形が変わっていくのだと説きます。本稿では、宇野氏の新刊『自分で始めた人たち――社会を変える新しい民主主義』より、現代における民主主義のポイントを紹介します。

「民主主義」に対するコンセンサスはない

コロナ禍において、有能な専制体制のほうが危機によりよく対応できるのではないかという言説が力を持ちました。しかし今日、世界はあらためて暴走する独裁者の恐ろしさを痛感しています。今回のウクライナ侵攻という悲惨な出来事を契機に、民主主義への動きが再び加速することを願っています。

とはいえ、民主主義とはいったい何なのでしょうか。

2021年12月、民主主義サミットが開催されました。世界各国の首脳が集まり民主主義について議論すること、それ自体は意義深いことです。民主主義がまさに現在の人類にとって、もっとも重要な課題の1つであることは明らかです。

一方で、どの国が会議に招待され、どの国がされないのか、明確な基準はあったのでしょうか。また参加している各国のリーダーの間には、「民主主義とは何か」についてのコンセンサスがどれだけあったのでしょうか。それぞれの国が「自分の国は民主主義である」と勝手に主張しているようにも思えました。民主主義への関心がいよいよ集まる中、議論はむしろ迷走しているかのようです。

私は政治思想史の研究者です。民主主義の思想を中心に勉強してきました。とくに好きなのは、後でも触れます19世紀フランスの思想家トクヴィルです。フランス革命に翻弄された若き貴族でしたが、アメリカに旅立ち、その地での経験を踏まえて書いた『アメリカのデモクラシー』は、民主主義論の古典1一つとなりました。このトクヴィルまで遡って考えることが、現代における民主主義を考える上でのヒントになると思います。

私は、古い思想家の言葉をあれこれ考えるのが好きです。彼ら、彼女らの言葉のうちに秘められた深い思考や、熱い情熱に触れたとき、そして現代を照らし出すその洞察力に驚くとき、もっとも幸福な思いに浸ることができます。

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