欧米とは前提が異なる日本、低インフレ脱却の捉え方 脱却に大きなメリットがあるかは不明確

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日本銀行が2%のインフレ目標を掲げているにもかかわらず、日本のインフレ率は、長らくおおむねゼロ%で推移している。これは、ほかのOECD(経済協力開発機構)諸国において過去20年間、インフレ率がおおむね2%前後で推移してきたこととは対照的だ(下図参照)。低インフレは、日本で低成長が続く元凶であると主張されることもあるほか、昨今では、海外とのインフレ格差から生じる日本の購買力低下と関連付けて語られることも多い。

日本で低インフレが続く理由としては、金融緩和の不足、高齢化、賃金が下落しやすい労働慣行など、さまざまな仮説が議論されてきた。政策担当者や民間エコノミストが、これらに基づき議論することは有益だ。一方で、経済学者の立場からは、経済モデルに基づく抽象的な議論も重要であると考えている。本稿では、日本の持続的な低インフレについて、筆者が進めている研究の暫定的な結果を含め、経済モデルに基づく議論を紹介したい。

現在、世界中の多くの経済学者や中央銀行が金融政策分析に用いている経済モデルは、ニューケインジアン型の動学的一般均衡(DSGE)モデルと呼ばれるものだ。こうした主流派モデルの1つの特徴に、「インフレ率は中央銀行の目標水準に収束していく」という前提が組み込まれている点がある。過去20年間、多くの先進国でインフレ率が2%前後で循環してきたことを考えると、理にかなった単純化であると言える。

一方、日本経済を分析対象として考えた場合、こうした主流派モデルの前提条件が妥当であるとは言いがたい。日本の長期的な低インフレはこうしたモデル内では定量的に再現できず、なぜ低インフレが続いてしまうのかという問いに答えることもできないからだ。

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