一定以上の所得がある75歳以上の人の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる法案が、昨年、可決・成立し、今年10月に施行される。受診抑制による健康への悪影響を懸念する声もあるが、実際にはどうなのだろうか。
窓口負担引き上げの効果を検証するための単純な方法としては、引き上げ前後の高齢者の健康状態の比較を思いつく。だが、これは適切な方法とはいえない。なぜなら、医療技術が進歩していたり、新型コロナのような感染症が流行していたりと、引き上げ前後では条件がそろわないからだ。
効果を正しく測定するためには、窓口負担を2割に引き上げた後の健康状態と、もしも1割のままだったらそうなったであろう健康状態とを比較する必要がある。この「もしも」のように実際には起こらなかった状態は、「反実仮想」と呼ばれる。現実と反実仮想の世界を比較することで、政策の影響を正しく評価できる。
米国の医療保険実験
反実仮想的な状況を人工的につくり出す方法の1つが、「ランダム化比較試験(RCT)」だ。米ハーバード大学のニューハウス教授は、1970年代半ばに米国の6つの都市で約7700人の参加者を集め、「ランド医療保険実験」と呼ばれる有名な実験を行った。
参加者には、窓口負担割合が0%、25%、50%、95%と異なる4つの医療保険プランが割り当てられた。プランの割り当ては無作為に決められたため、4グループ(群)において、参加者の性別、年齢、持病の有無などの条件はそろっていると考えられる。ニューハウス教授は、参加者らを3〜5年間追跡し、窓口負担の違いが各群の受診行動や健康にどのような影響を与えるのかを調べた。
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