日本郵政が秋に上場、ガバナンスに課題あり 民業圧迫、市場原理への対応など問題山積み

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だが、それでは1.3兆円には足りない。そこで生きてくるのが同時上場する金融2社の株式売却収入。上場計画では、日本郵政が得る金融2社の株式売却収入は、政府からの日本郵政株式(自己株式)の取得資金に充てることを想定している。これにより、試算値1.3兆円への不足額を埋めることが可能になる。

しかし、この計画に対していち早く反応したのは、ゆうちょとの“百年戦争”を繰り広げてきた銀行業界だ。同業界は、日本郵政による金融2社株式の保有率が50%程度に維持される状況が中長期的に続きかねないことを、懸念するコメントを表明。上場後も、民業圧迫など銀行業界との軋轢は解消しそうもない。

これらの問題以上に、日本郵政グループの課題となりそうなのが、上場に伴う市場原理への対応である。

2014年4月の財政制度等審議会の場で、東証関係者は「上場後は株主の監視によって(利益相反などの)未然防止をしていただくことを主眼に置いている」と発言した。

市場原理に対応できるか

折しも東証は今年6月、コーポレートガバナンス・コードを導入する予定だ。生産性向上を目指す同コードを受け入れた上場企業は、実質的な意味での独立社外取締役の複数選任や中長期的な経営ビジョンの明確な開示を、これから厳しく求められる。

また民営化法は、金融2社にもサービス内容に地域格差などをつけない、ユニバーサルサービスを義務づけている。が、この社会政策と、資本市場からの生産性向上というプレッシャーとの板挟みになることが予想される。

同様に民営化法は、日本郵政が保有する金融2社株式の全額処分(売却)を「ユニバーサルサービス義務の履行への影響等を勘案しつつ、できる限り早期に」と定めている。

はたして「できる限り早期」という玉虫色の表現が、経営ビジョンの明確化を求めるコーポレートガバナンス・コードの基準を満たしているのか。この先、そんな論点も浮上しておかしくない。民営化に進み始めた日本郵政グループを、これからも試金石が待ち構えている。

(「週刊東洋経済1月17日号」(1月13日発売)「核心レポート01」を転載)

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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