「成功したがゆえに失敗」ポストリベラルは共同体重視
評者・青山学院大学教授 会田弘継

[Profile] Patrick J. Deneen 米ラトガース大学で英文学と政治学を学ぶ。プリンストン大学、ジョージタウン大学で教鞭を執った後、2012年からノートルダム大学政治学部教授。専門は政治哲学史、米国の政治哲学、宗教、政治。著書に『The Odyssey of Political Theory』『Democratic Faith』など。
トランプ米大統領出現の一方で社会主義を掲げる政治家の台頭も起きて、近年の米政界は左右とも大きな変動に見舞われている。そんな中に現れた論争の書だ。
今日の米国の左右の思想を切って捨てるだけでなく、米国建国の礎となった近代リベラリズム(自由主義)をベーコン、ホッブズ、ロックといった初期の啓蒙思想家にまでさかのぼって批判。個人主義に基づく自由主義に代えて、小さな「共同体」の復権から政治を立て直すよう訴える。

本書をオバマ前大統領が推奨しているが、著者自身はトランプ大統領の登場をきっかけに保守思想の刷新を図ろうとする知識人の1人だ。そのことからも米政界と思想の混迷ぶりがうかがい知れる。
500年近く前に生まれた政治哲学・リベラリズムは「成功したがゆえに失敗」し、「非リベラル的な所産」をもたらしている。激しい貧富の差や教育格差、白人労働者の苦境や若者の負債であり、モラルの崩壊だ、と著者はいう。
本書で「リベラリズム」という言葉は多義的に使われる。著者が批判を加えているのは、伝統的規範から解き放たれ、自由な意思を持ち合理的判断をする個人が「社会契約」で国家に生命、財産権の保護を委任する一方で、自由と富の拡大を追求する仕組みだ。