大統領選、ブレグジットの裏、すべてを見た女の悔悟と警告
評者・東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望
理想に燃え、人権活動に取り組んでいた26歳の女性が偶然、ケンブリッジ・アナリティカ(CA)という選挙コンサルティング会社に就職する。CAは米大統領選挙でトランプ候補の選挙運動を支援することになり、彼女も運動に巻き込まれる。著者は本書の目的を「世間知らずで野心家だった私が、自分でも驚くほど迷わず歴史の負の側面に身を投じてしまった経緯を話す」ことだと書く。
そうした個人的な思いに加え、「トランプ、フェイスブック、ブレグジットが民主主義を破壊し、私たちのデジタル生活に不正侵入し、データを悪用するさまを目の前で見てきた」と、その実態を明らかにする。本書は2014年から18年までの5年間にCAにおける著者の経験を記した、まさに告発の書である。
CAの取締役には、トランプのアドバイザーで、アルト・ライトと呼ばれる極右の指導者スティーブ・バノンや大富豪で極右を資金的に支援するロバート・マーサなどが名を連ねていた。彼らを軸に共和党政治の裏側が生々しく描かれている。大統領選の後、バノンの紹介でCAはEU離脱の国民投票で極右の活動を支援することになる。
CAはビッグデータと行動心理学を組み合わせ、さらに「マイクロターゲティング」や「サイコグラフィックス」といったマーケティング手法を選挙運動に活用し、有権者が何に関心を持っているかを把握、その情報量は約2.4億人分に及んだ。個人情報を基に、CAは有権者の投票行動に影響を及ぼすべく、フェイスブックを通してフェイクニュースや歪められた内容の政治広告を有権者に送りつけた。こうしたフェイクニュースがトランプ候補当選に大きな影響を与えた。
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