「ゼイタクはいらない、普通の人間の生活がしたい‼」。遺書とみられるメモにはそう記され、丸印で囲まれて強調されていた。
中国地方の総合病院の産婦人科に勤務していた、当時50代の男性医師が自殺したのは過労が原因だとして、妻が労災認定を求めた裁判で、広島地方裁判所は昨年5月、不支給とした国の処分を取り消した。国側は控訴せず、判決は確定した。
男性医師は僻地にある病床数約300の総合病院で、約10年間産婦人科部長を務めてきた。2009年に精神を患い、自宅のガレージで縊(い)死した。男性医師の勤務実態には、とりわけ過酷といわれる、産婦人科医の労働環境の問題点が集約されている。
通常、医師1人が扱う適切な分娩件数は年100件程度とされているが、同病院はその1.4倍と多かった。
産婦人科の手術には2人の医師が必要であるため、一般的には同科には少なくとも3人の常勤医が欠かせないとされる。だがこの病院の産婦人科の常勤医は、男性と若手の2人のみ。緊急手術となれば交代要員がいないため、当番以外の夜間や休日であっても結局、毎日のように待機を余儀なくされていた。病院敷地内の医師住宅で暮らしていたこともあり、それこそ年がら年中呼び出されていたという。
またこの病院には新生児集中治療室(NICU)がないため、新生児に問題があれば救急車でも1時間以上かかる基幹病院への搬送が必要となる。一刻も早い判断が求められ、医師にかかる負担は重い。さらに同院には麻酔科がないため、産婦人科の医師が自ら麻酔まで担当していた。
裁判ではこうした産婦人科、とりわけ僻地病院の大変さについて、日本産婦人科医会と日本産科婦人科学会の幹部が意見を提出。病院に医師を派遣していた側の大学教授も原告側証人として証言したことで、医師の予測や判断が事故に直結する危険があるという業務の過重性の評価にもつながり、労災が認定された。
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