薬による治療効果は、患者が期待しているよりも小さい。人間を対象にした臨床試験の結果でエビデンス(科学的根拠)があったとしても、統計学的な事実を示しているだけで実際の治療効果はわずかな場合がある。あくまで統計学的な確率であり、個別の患者で何が起こるか予測は難しい。これは臨床の現場でどの医師も直面することである。
しかし一方で、薬の中にはそのエビデンスが乏しい薬がある。そうした薬が漫然と処方されていることが大問題なのだ。学界のボスや製薬会社の言うとおりに処方している医師があまりに多い。お薦めしない薬を紹介しよう。
例えば、糖尿病の治療薬で比較的新しいタイプのDPP‐4阻害剤。トラゼンタ、ジャヌビアという製品名で発売されているが、血糖値を下げる効果はあっても、糖尿病の合併症である網膜症や腎症を減らす明確なエビデンスはない。また、心筋梗塞や脳卒中の予防効果はないというエビデンスがある。
また、同じ糖尿病薬で、チアゾリジン系薬剤のアクトスも、心血管病のリスクを減らす確実なエビデンスはない。それどころか心不全が増えるという研究がある。糖尿病の治療は、心筋梗塞や脳卒中も含めて合併症の予防に意味がある。だから予防効果がはっきりしている薬を使ったほうがいい。私は昔からあるメトホルミンを第1選択薬にしている。こちらは圧倒的に合併症の予防効果が高い。
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