ほとんどの風邪に抗生物質(抗菌剤)が効かないことは、医師は知識としては当然知っている。風邪の原因の9割はウイルス感染症で、抗菌剤はウイルスには効かないためだ。
だが医者にかかると、抗菌剤が処方されることが少なくない。「抗菌剤が風邪の重症化や細菌への2次感染を防ぐ」という見解も根強かったが、2000年半ばには国内外の研究を通して否定されている。それでも「風邪に抗菌剤」は一向に解消されない。
習慣的に抗菌剤を処方する医師もいるが、患者側の要望が強いという事情もある。
日本化学療法学会などが18年に診療所の勤務医を対象に実施した意識調査によると、風邪と診断された患者が抗生物質を希望した場合、「説得しても納得しなければ処方する」が50%、「希望どおり処方する」が13%で、全体の6割に上った。
抗菌剤の多用はどんな弊害があるのか。深刻なのは、抗菌剤が効かない耐性菌(薬剤耐性菌)を蔓延させてしまうことだ。細菌はさまざまに形を変えながら、増殖を繰り返す。抗菌剤で病気を起こす細菌を殺すことができても、耐性菌には効果がない。すると死んでしまった細菌の場所に耐性菌が繁殖してしまう。こうして耐性菌がどんどん増える悪循環になる。
衝撃のデータ
薬剤耐性菌によって国内で年間8000人が亡くなっている──。19年12月、国立国際医療研究センター病院・AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンターの調査結果は、関係者に衝撃を与えた。耐性菌による国内の被害の全体像が示されたのは初めてのことだ。
この記事は有料会員限定です
残り 642文字
