池上彰が読み解く「イスラム国の真の姿」 「過激テロ国家」という認識は思い込み?!
著者ロレッタ・ナポリオーニは、ここで衝撃的な比喩を持ち出します。「イスラム国」の第一義的な目的は、「スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人にとってのイスラエルとなることである」というのです。「かつての自分たちの土地の権利を現代に取り戻すこと」であり、「たとえ自分が今どこにいるとしても、必ずや守ってくれる宗教国家」になること。この目標は、ユダヤ人がイスラエルを建国した目的とそっくりです。これこそ著者ならではの独自の視点です。
そして、「イスラム国」を分析すればするほど、この「国家」が、洗練された組織であることがわかってきます。
「イスラム国」は封建国家ではないのか
私たちが日本国内で接する「イスラム国」のニュースには、覆面した男たちが銃を高く掲げて登場します。あれだけを見ていると、「イスラム国」は、単なる武装集団のような印象を受けます。しかし、その内実は、しっかりとした財政基盤を持ち、決算書も作成し、都市のインフラを整備し、新しい市場を建設。住民の心をつかむ政策を実施していると、著者ロレッタ・ナポリオーニは解き明かします。驚くべきことではありませんか。「イスラム国」は、時代錯誤の封建国家ではなく、近代化された国家だというのです。
そうなると、近未来、イラクとシリアにまたがる地域に誕生した「イスラム国」を、国家として承認する国が出てくるのでしょうか。「国家」として認められる要件は、領土があり、住民がいて、周辺国から国家として承認されることです。そう考えると、「イスラム国」は、限りなく国家に近い存在と言えるでしょう。
「イスラム国」のカリフ(預言者ムハンマドの後継者)を宣言したアブ・バクル・アル・バグダディは、イラク国内の米軍の収容施設に入っていたことがあります。
2009年、この施設を出所した彼は、ニューヨーク州出身の米兵に向かって、「ニューヨークでまた会おう」と言ったそうです。これを聞いた米兵は、冗談だと受け止めましたが、カリフ制国家としての世界征服を目指す「イスラム国」が急成長している今、これは冗談としては受け止められなくなっているのです。
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