池上彰が読み解く「イスラム国の真の姿」 「過激テロ国家」という認識は思い込み?!

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著者ロレッタ・ナポリオーニは、ここで衝撃的な比喩を持ち出します。「イスラム国」の第一義的な目的は、「スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人にとってのイスラエルとなることである」というのです。「かつての自分たちの土地の権利を現代に取り戻すこと」であり、「たとえ自分が今どこにいるとしても、必ずや守ってくれる宗教国家」になること。この目標は、ユダヤ人がイスラエルを建国した目的とそっくりです。これこそ著者ならではの独自の視点です。

そして、「イスラム国」を分析すればするほど、この「国家」が、洗練された組織であることがわかってきます。

「イスラム国」は封建国家ではないのか

ロレッタ・ナポリオーニ(Loretta Napoleoni)●1955年生まれ。米国のジョンズ・ホプキンス大学で国際関係と経済学の修士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで哲学修士号。ハンガリー国営銀行で通貨フォリントの兌換通貨化を達成、そのスキームは、後にルーブルの兌換通貨化にも使われる。1997年、親友が元首相誘拐殺害にも関与したテロ組織の幹部として逮捕。刑務所面会中、話し方が投資銀行員に似ている事に気がつき、「赤い旅団」のファイナンスについて調査開始。PLOやIRAといった国家形態をとるテロ組織などを研究した本を出版。北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタント。各国元首脳が理事を務める国際組織「Club de Madrid」対テロファイナンス会議長。

私たちが日本国内で接する「イスラム国」のニュースには、覆面した男たちが銃を高く掲げて登場します。あれだけを見ていると、「イスラム国」は、単なる武装集団のような印象を受けます。しかし、その内実は、しっかりとした財政基盤を持ち、決算書も作成し、都市のインフラを整備し、新しい市場を建設。住民の心をつかむ政策を実施していると、著者ロレッタ・ナポリオーニは解き明かします。驚くべきことではありませんか。「イスラム国」は、時代錯誤の封建国家ではなく、近代化された国家だというのです。

そうなると、近未来、イラクとシリアにまたがる地域に誕生した「イスラム国」を、国家として承認する国が出てくるのでしょうか。「国家」として認められる要件は、領土があり、住民がいて、周辺国から国家として承認されることです。そう考えると、「イスラム国」は、限りなく国家に近い存在と言えるでしょう。

「イスラム国」のカリフ(預言者ムハンマドの後継者)を宣言したアブ・バクル・アル・バグダディは、イラク国内の米軍の収容施設に入っていたことがあります。

2009年、この施設を出所した彼は、ニューヨーク州出身の米兵に向かって、「ニューヨークでまた会おう」と言ったそうです。これを聞いた米兵は、冗談だと受け止めましたが、カリフ制国家としての世界征服を目指す「イスラム国」が急成長している今、これは冗談としては受け止められなくなっているのです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶応義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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