「とんでもない詐欺に引っ掛かった気分だ」。愛知県で宅配ドライバーとして働いていた男性(61)は当時を振り返る。
男性が働き始めたのは2015年の年末。「月収45万円」の求人チラシに引かれて人材会社に採用面接に向かうと即採用、数日後に短時間で説明を受け膨大な書類への押印を迫られた。そこで取り交わされたのが「委託基本契約書」と「業務委託確認書」だった。
仕事は大手運送会社の荷物の個人宅への配送だ。毎朝7時ごろから出発の準備をし、多い時は1日130個の荷物を配送、夜間の再配達や日報など業務報告が終わるのは22時を過ぎる。日々の業務で男性に指揮命令していたのは、もっぱら大手運送会社の社員だ。
肝心の収入は、確かにノルマを達成すれば45万円にはなる計算だ。だがガソリン代や自動車保険料など維持管理費はすべて自己負担となる。人材会社に管理費などを天引きされた結果、「手取りが20万円を超えたことは一度もなかった」(男性)という。
体重が20kg近く減るような激務で10カ月間働いた末、胃潰瘍(かいよう)で倒れ離職を余儀なくされた。労災など補償もないうえ、人材会社からは80万円超の自動車代などの支払いを求められた。「委託だとここまで守られないとは知らなかった」と男性は悔やむ。
個人が企業と業務委託契約を結び「個人請負」となると、労働基準法などの労働法規がいっさい適用されない。その結果、解雇規制はなく、職を失っても失業保険給付はない。また時間外、休日、深夜労働手当がなく、有給休暇もない。社会保障の面でも、年金や医療保険はすべて自己負担となる。

つまり個人請負となると、契約社員やパート、派遣などの非正社員の比でない無権利状態に置かれることになる。今回の無期雇用化や同一労働同一賃金の導入で、非正社員の待遇改善が進んだとしても、個人請負のような「非雇用」がその抜け道となっては、すべての取り組みが水泡に帰しかねない。
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