「ナッツリターン」に透ける、韓国財閥の宿痾 後継者の傲慢さが"財閥否定"を増長

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韓国のナショナルフラッグ・キャリアの針路はどうなる?(撮影:尾形文繁)

さらに、責任者が帰国した後、大韓航空社員の5~6人が連日自宅を訪ね、「責任者がマニュアルを熟知していなかったために趙氏が怒ったが、侮辱するような言葉はなく、自らの意思で飛行機を降りた」と証言するよう要求したと発言。これに対し趙顕娥氏は、「初耳」と答えているという。

責任者のこのような発言が事実であれば、あまりにも傲慢だ。また、そんな経営者を擁護するような社員の行動にも、韓国国民は「財閥の愚かしさ」と眉をひそめている。創業者一族を“神”のように考え、その僕(しもべ)として創業者一族の保護に回るのは、何も大韓航空だけではないからだ。

財閥の欠点は結局治らない?

「財閥の愚かしさ」を感じることは、韓国社会ではあまりにも多い。特にこの1、2年、財閥グループの子息が道楽のような事業を開始し、それが同種事業を行う中小企業を圧迫しているという批判が高まった。たとえば、サムスングループの李健煕会長の一族が製パン・製菓事業やコーヒーショップを始めたことがあったが、これには「街の零細製パン業者を圧迫する」として強い批判を浴びたことがある。

歴代の韓国政権は中小企業育成に力を入れてきたが、効果があったかは言いがたい。財閥による道楽のような事業参入については規制を行ったこともあり、今ではなくなった。だが、有望な中小企業があれば、取引をしながら力を育てていくという発想が韓国企業にはない。資金力にモノを言わせ、すぐに買収してしまう。だから、中小企業は育たず、ましてや大企業と零細企業とウィンウィンの関係をつくることもほとんどないのが実状だ。

日本でもそうだが、韓国でも「3代目が会社を潰す」という言葉は人口に膾炙している。サムスン電子や現代自動車をはじめ、相次いで代替わりする時期を迎え、財閥企業のあり方がなおさら注目されている。とはいえ、「結局何も変わらない。財閥だから、趙顕娥氏も1、2年後には復帰するはずだ」(前出の韓国紙記者)。そう思われるのも、韓国財閥の現実なのだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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