居酒屋で「ランチ宴会」が増えている理由 シニアとママが飛びついた絶妙な仕掛け

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きちりが今年10月、新宿中村屋ビルにオープンした「KICHIRI MOLLIS(モーリス)」では、ランチタイムの子連れママ需要を獲得する仕掛けを盛り込んだ。エントランスはベビーカーが置ける十分な広さに設計、子供の安全を考慮してじゅうたんの席を設けるとともに、子供向けメニューの提供やランチタイム限定での授乳室の完備などだ。客単価は約1800円。ランチとしては少し高めの価格設定だが、それでも毎日ほぼ予約で埋まっている。

ランチタイムのママ会自体は昔から行われてきていたが、従来は周りに気を遣わなくてもよい、同じ境遇の友だちの家を開催場所にしているケースが多かった。中には子供連れの入店を断る飲食店もあり、小さい子供を連れての外食にはハードルが高かった。しかし最近では、このママ層を取り込もうとお子様連れの方に配慮した飲食店も増えてきた。「たまにはちょっとした贅沢をママ友と自分お子供と一緒に味わいたい」という需要から、カフェやレストランでママ会を実施するケースが増えている。

ランチ忘年会で専業主婦の需要獲得も

この忘年会シーズンでは昨年と違った流れも来ている。専業主婦をターゲットにした「ランチ忘年会」だ。専業主婦は夜には家族の食事をつくらないといけないため、外食がなかなかできない。でもランチタイムであれば子供は学校に行っているし、夜よりもお手頃な価格で罪悪感なく参加することができるという利点があるのだろう。予算は3000円前後と、これも通常のランチ客単価よりも高くなる。

シニアやママなどにターゲットを絞り、ランチ宴会を集客する外食企業には狙いがある。一般的に、飲食テナントビルに入っている空中階の店はランチタイムの集客が弱い傾向にあるため、ディナータイムのみの営業としているところが多い。ランチ営業は営業時間が限られるうえ、昼食のみのランチだと700~1000円程度と単価が低く、人件費と売り上げのバランスが崩れてしまうのも大きな要因だ。

一方、ランチ宴会なら2000~3000円という高い客単価が見込めると売り上げの予測も立てやすく、人件費とのバランスもとりやすくなり、不動産の効率的な利用にもつながる。さらにはランチタイムの利用でお店を知ってもらえば、シニア層やママ層が属する同じコミュニティーの間で店の評判がクチコミで拡散されるという宣伝効果も期待できる。

外食業界は厳しい事業環境にある。中でも居酒屋業態の苦戦は鮮明。日本フードサービス協会によれば、2014年10月のパブ・居酒屋カテゴリの売上高は前年同月比2.2%減と、26カ月連続のマイナス。「和民」「わたみん家」を運営するワタミが102店の閉鎖に追い込まれたのは象徴だ(関連記事「ワタミはなぜここまで凋落してしまったのか」)。

しかし、ランチ宴会を新たな収益源に育てている飲食店や「ちょい飲み」をうまく取り込んだファミリーレストランなど、新たなニーズをうまくとりこんでいる外食企業では、この事業環境でも前年を上回る健闘を見せているところもある。「ランチに宴会のお客がいた」というのは時代の流れもあるが、新たな需要獲得を模索したことで生まれた成果でもある。飲食店業界はこの厳しい事業環境で勝っていくには、既成概念の打破が必要だ。

三上 成文 フードアナリスト・ブランディングプランナー

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みかみ しげふみ / Mikami Shigefumi
外食大手企業での現場経験を経て、広告代理店にて広告営業を経験。2009年、当時のクライアントであった外食ベンチャーにて、ブランディング/PRに携わり、自社PRだけでなく、地方自治体や他社との業務提携PRを担当。2014年12月より、海外人気店の日本展開PRに携わる。

 

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