"自民圧勝観測"でマーケットが沸騰 株高・円安戦略の強化に期待

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構造改革が再び、既得権益層の抵抗にあい、改革がとん挫する不安もある。「自民党が強いのは依然として地方だ。地方の有権者から反対されそうな農業改革やTPPを果たして推進させることができるかは疑問だ」(国内証券)と不安視する声は、市場でも少なくない。

財政再建を棚上げすることで、景気対策・デフレ対策にまい進するとしても、円安による輸入物価上昇分を超える賃金上昇が見込めるかは不透明だ。

しかし、経済の行方はともかく、株高・円安路線は一段と強固になるとみられている。「安倍首相が絶対的な政治的権力を得たとしても、経済が持続的な成長軌道に乗せることができるかは、まだわからないが、その『手段』として、株高・円安が使われることはまず間違いない」(国内銀行幹部)というのが強気筋の読みだ。

円安には副作用も大きいが、衆院選で圧倒的な票数を得れば、「アベノミクス」が国民の信を得たと主張できる。物価は原油安で物価は上がりにくくなっており、少しでもデフレの傾向が強まれば、日銀は追加緩和を実施するとの期待が自民党の圧勝で高まりやすいことになる。日銀や公的年金の買いが押し上げる需給的に歪んだ株高だとしても、株高に反対する声は小さい。

ドル/円<JPY=EBS>は4日の市場で119円98銭まで上昇、120円の大台に迫った。「行き過ぎた日銀緩和は良くないとする民主党が惨敗すれば、来年2人(宮尾龍蔵委員が3月、森本宜久委員が6月)の任期を迎える日銀審議議員の国会同意人事も、安倍政権の意向が働きやすくなる。リフレ派が入れば追加緩和がやりやすくなると市場は予想するだろう」と、SMBC日興証券・日本担当シニアエコノミストの宮前耕也氏は話す。

強気相場の中で懸念材料は後回し

もっとも自民党が勝ち過ぎることにも懸念がある。「圧倒的な大勝利だと政府に慢心が生じ、国内景気を押し上げる政策を一生懸命やらないのではないか、という疑問が広がりかねない」(T&Dアセットマネジメントのチーフ・エコノミスト、神谷尚志氏)という。一方、成長力の強化につながらない財政のバラマキが起きてしまえば、財政再建を一段と遅くする。

また、衆院選に対する市場の期待値が上がったことで、失望のリスクも大きくなった。

「今の与党をそれなりに支持はするが、勝ち過ぎないように動く『バッファー・プレーヤー』の存在がある」とSMBC日興証券・金融財政アナリストの末澤豪謙氏は指摘する。選挙戦の序盤や中盤で今回のような与党大勝の報道が出ると、野党に入れておこうとする向きが出てくる可能性があるという。

ただ、自民圧勝観測に沸く市場では、まだ懸念を現実的に受け止めているわけではない。「憲法改正など安倍政権が右傾化することも懸念要因だが、強気相場の中では、そうした懸念は後回しとなっている。バブルの匂いもしてきているが、しばらく市場はリスクオンの踊りを続けることになりそうだ」(三菱UFJMS証券の藤戸氏)という。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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