生誕120年、「松下幸之助」とは何だったのか 今でも色あせない「ひとことの力」

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数年前ある会合で、アメリカの半導体企業のCEOから言われた言葉が忘れられません。

「われわれは1980年代、日本からの怒濤のようなハード(自動車や電機製品)の輸出に恐怖を感じた。だが今は安心している。なぜなら日本人は一度、コンセプト(基本的な概念)が与えられると芸術品とも言うべきものを量産する恐るべき能力があるが、コンセプトを与えられないと、何もできないことがわかってきたからだ」

彼は嫌みを言おうとしたのではありません。技術に造詣が深い経営者として、冷静に日本を分析してみせたのです。言われてみれば、カメラ、自動車、半導体、ディスプレーなどあらゆる工業製品がそうです。製品だけでなく、近代国家とか軍隊という制度も欧米の所産です。

日本企業はデジタル家電で、勝者になれる

この指摘は、松下電器や日米の大学で半導体や電子技術の研究に携わってきた私にとっても、深くうなずける内容でした。日本は欧米を模倣し、追いつくためのキャッチアップシステムばかりに磨きをかけてきたが、そもそもコンセプトをつくろうとしてこなかった。すでにあるものをまねることはできるが、この世にない製品を作ることはできない。ハードだけでなくソフトを作ることもできません。ITの分野で、マイクロソフトやヤフー、グーグルが隆盛を極めるようになって、ようやく日本でもソフトの重要性が認識されるようになりました。

では日本はこれからもコンセプトづくりで圧倒的に旗色が悪いのか? 私は必ずしもそうは思いません。有望分野の一つはデジタル家電です。これまでの家電はすべてアナログでしたが、現在、あらゆる家電がデジタル化しつつあります。そうなると相互接続ができるようになり、まったく新しいサービスも生まれてくるでしょう。

21世紀のエレクトロニクスでは、デジタル家電で標準をつくった企業が勝者となります。それがどんなものなのか、まだはっきりしていませんが、日本企業はこの分野で一日の長があるだけに、勝者になれる可能性があります。

もっとも楽観はできません。キャッチアップシステムの悪い癖が直らないのか、官が音頭を取って規格標準を作ろうとする動きがあります。大手各社が参加してリスクを分担し、共同開発をしようという動きです。しかし真に革新的なコンセプトは、官のイニシアティブや横並びの発想からは決して出てきません。それはすでに実証済みなのです。

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