新幹線札幌延伸で気がかり「並行在来線」の大問題 30年度末開業だが、いまだ方針が決まらない

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それに対して、並行在来線を論じる制度は狭い地域の人流面だけで設計され、小さな自治体の判断だけで存廃が左右される仕組みである。今回の事象を議論する上で圧倒的にステークホルダーが少なく、「もはや制度が馴染まない」という見方は共通しており、元国土交通省の関係者にして「事ここに至ったからには、JR貨物と北海道、国による新たな組織体を作るしかないと思う」との言であった。

駒ケ岳経由と渡島砂原経由の2つのルートが合流する森駅。特急停車駅だが2018年平日特定日の調査では1日の乗車人員192人。森町に新幹線駅はできない(写真:久保田 敦)

ここで北海道庁交通政策局の担当部署による話を差し挟むと、「沿線自治体の財政で線路を持つことは困難。しかしそれを線路を外すことに直結させるのは飛躍しすぎ」と聞いた。部内では何らかの検討はされていることだろう。

ただし、現在の並行在来線対策協議会は地域の輸送をどうするかを地元で判断する場であるため、物流やJR貨物の話はしないとの意思を固めている。物流路として線路が残ればそこに旅客が相乗りできる。現在とは逆の形で旅客列車を残せる――との頭から、「物流を先に議論すべき」との声も当然あるが、それは押さえ込んだ形だ。地域交通とは別部署の物流担当者は「地域の方向性が出てから具体的な検討に入る」としている。

地元自治体には物流の責がなく、JR北海道は地元が切り離しを同意しているので線路維持に参画することはない。すると、JR貨物が第1種鉄道事業者となればすっきりするが、そもそもJR旅客各社の路線を走る上では、アボイダブルコストルールに基づく線路使用料の設定で負担が軽減される制度設計としたことで採算に乗っており、一身に引き受けるのは困難だ。

一方、この物流を維持することにより恩恵を受けるのは道内の生産者であり、道外全体の消費者である。となれば「道内の産業振興を司る北海道が線路を持ち、そこに国税で支援するという形が納得を得やすいのでは?」と話す人が多かった。

「知事の顔が見えない」

現在の並行在来線問題における北海道は、沿線自治体の事務局としか見えず、北海道の問題として先頭に立つ雰囲気が感じられない。今までの他線の例であれば県が主体となっていたものだが、今回の例ではまったく沿線市町の判断が報じられるばかりで、「知事の顔が見えない」との批判は大きい。地元の話が決着した段階になれば、北海道が前に出てくるのだろうか。

国民の食糧問題や首都圏の災害などへの備えとして捉えれば、政治の判断として北海道貨物鉄道会社などと名乗る特殊法人が立ち上げられることになるのだろうか。それであれば、交通問題として国土交通省だけで考える問題ではなく、財源は国全体として考えなければならない。となれば、今は北海道内の話として知る人も少ないこの問題について、全国へのアピールが大事になってくる。

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