中国の領土的野心がアジアの平和を壊す--ブラーマ・チェラニー インド政策研究センター教授

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しだいに明確になってきている、中国の領土と領海に対する領有権の要求は、アジアの平和と安定を脅かしている。中国が切望している最大の領土は南シナ海上や東シナ海上にはない。それは広さが台湾の3倍もあるインドのアルナーチャル・プラデーシュ州である。

国境の尊重は平和と安定の前提条件だ。欧州は、その原則に基づいて平和を構築してきた。しかし、中国共産党は領土の正当性を訴えるために古くからの紛争を蒸し返している。領土の現状をあからさまに拒否することにより、中国は政治的な交渉の可能性を否定している。結局、国境線は交渉を通して書き直されることはない。見直しがあるとすれば、戦争によってである。それは中国が過去に行ってきたことだ。

現在、アルナーチャル・プラデーシュ州や台湾、尖閣諸島、南沙諸島の領有権を主張するために、中国は軍事的な脅威をちらつかせている。隣国と領土をめぐって争うことで、中国は古い敵を活気づけるだけでなく、アジアの経済的な復興を脅威にさらしている。それは信頼できるアジアのリーダー候補がすることではない。今、アジア諸国とアメリカにとって重要なことは、中国に対し、「平和的な台頭と国境の一方的な修正は相いれない」という明確なメッセージを送ることである。

Brahma Chellaney
インドの代表的な戦略研究家。1989年ジャワハルラル・ネルー大学で博士号取得(国際関係学)。ハーバード大学、ブルッキングス研究所などを経て現職。専門は安全保障と軍縮。著書に『Asian Juggernaut: The Rise of China, India and Japan』。

(週刊東洋経済2010年11月20日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

写真出典:国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省


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