中国共産党の習近平総書記(国家主席)は就任後10年間の大半を、安定を重視した政権運営に徹してきたが、3期目を目指す今年、国内外でかつてないほどの危機に見舞われている。
新型コロナウイルス禍が直撃した2020年を除けば、中国経済はここ30年余りで最も低い成長率となりそうだ。住宅市場は混乱し、デフォルト(債務不履行)が急増している。国内の大手テクノロジー企業に対する習政権の締め付け強化で投資家は萎縮。米国との関係が一段と厳しさを増す中で、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことで、中国はプーチン大統領支持について見直しを迫られている。
5年に一度の党大会開催を年内に控え、北京では今月5日に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が始まる。
ユーラシア・グループの中国政治・対外政策アナリスト、ニール・トーマス氏は、「第20回党大会で慣例を破って3期目就任を狙う習氏は、その準備を妨げるような経済・金融危機を防ぐため、今年あらゆる手段を講じることになろう」と予想。「だが、外的ショックが中国政府のコントロールを超えた事態を引き起こし得るというテールリスクは常にある。それが、ウクライナ危機の早急かつ平和的な結末を中国が促している理由だ」と分析する。
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調査会社トリビアム・チャイナの共同創業者トレイ・マカーバー氏は、「大きな混乱」なしに万全の態勢で党大会に臨みたいという習氏の願いは、成長と雇用を直ちに後押しするという短期目標の追求に同氏を駆り立てる可能性があるとみている。「党大会を控え大きな混乱や問題がないようにするため、今後数年間かけ対応しなければならないような犠牲を払ってでも処理することをいとわないだろう」と同氏は言う。
政府がどれだけ短期目標を重視しているかは、李克強首相が5日に発表する今年の政府活動報告で分かる。この報告には通常、国内総生産(GDP)の成長率目標や産業政策・財政支出・課税方針が盛り込まれるためだ。昨年12月時点でエコノミストらは成長率目標を少なくとも5%と予想していたが、その後の減速と景気刺激策に向けた動きから、習指導部がより野心的な目標を掲げることもあり得る。
ウクライナ危機
安定維持に取り組んでいる中国にとって、商品・石油価格急騰を招いているロシアのウクライナ侵攻は波乱要因だ。習氏は中国の戦略的パートナーであるロシアに対する制裁を支持するよう求める国際社会からの圧力を感じているはずだが、対ロシア制裁に参加しないと決めた中国がロシアに金融支援を提供する可能性はある。
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ただ、中国の外貨準備高3兆2000億ドル(約370兆円)の3分の1余りが米国債であることを踏まえると、ロシアが持つ多くの準備資産の凍結というほぼ前例のない制裁措置は、もし中国が同じような状況になったら、いかに脆弱(ぜいじゃく)かを裏付けている。ウクライナで起きた紛争を受け、中国が米国との金融デカップリング(切り離し)を加速させるという結果になることもあり得る。そうなれば資本市場と外国投資の不安定要因となる。
インフレとコロナ
トリビアムのマカーバー氏は中国政府がインフレを強く警戒しているとも指摘する。北京の天安門広場に抗議活動のため人々が集まり人民解放軍が排除に動いた1989年の天安門事件の前も含め、物価高に対して中国国民は歴史的に極めて敏感だとし、「インフレを恐れ北京の政策当局者は眠れないでいる」と語る。
「中国共産党は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)に絡み潜在的な危機に直面している」とみているのは英グラスゴー大学で中国研究スコティッシュセンターのディレクターを務めるジェーン・ダケット氏だ。「オミクロンもしくは別の変種株が中国全土に広がった場合、死者数増加や医療体制逼迫(ひっぱく)など、香港と同じ結果となるかもしれない」としている。
コロナを一切容認しない「ゼロコロナ」戦略を堅持している中国に従う香港は今、コロナ感染の急拡大に見舞われている。
原題:Xi Jinping Engulfed in Crises Just When He Wanted Stability Most(抜粋)
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著者:Bloomberg News
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