低年齢の「発達障害」、薬で隠される子どもの危機 独自調査でわかった「4歳以下」への投与実態

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実際、発達障害の薬はより年齢の低い幼児へ広がっている。

2016年には、大人の統合失調症に使われる「エビリファイ」と「リスパダール」が、発達障害の一つである小児の自閉スペクトラム症の易刺激性(癇癪、攻撃性など)に対して使えるようになった。これらは脳の中枢神経に作用する抗精神病薬で、気持ちの高ぶりを抑えるといった効果がある。いずれも自閉症の根本的な治療ではない。

エビリファイの添付文書によると、服用は「原則6歳以上」と記されている。6歳未満については、薬の安全性と有効性を確かめる臨床試験(治験)が行われていない。にもかかわらず、厚生労働省が公開する医療機関の支払い明細データを集計すると、4歳以下への処方量が増加していることが分かった。

エビリファイはさまざまな用量(1㎎と3㎎)の錠剤があるため、用量で換算して合計した結果が上の図だ。2015年の9500mgに比べ、2019年にはその7.5倍の70000mg以上に膨れ上がっている。

エビリファイは錠剤だけでなく、子どもが飲みやすい液剤もある。特に増えているのが、この液剤の処方だ。リスパダールの4歳以下の処方量も、2014年の7400mgから2019年には25000mgに増加している。

眠気で子どもの行動を鎮静

東洋経済が調べた結果について医師や薬剤師に意見を聞くと、一部からは「あまりのショックに呆然とした」と、驚きの声も出た。発達障害の子どもを診療している福島県立矢吹病院の井上祐紀副院長はこう話す。

「エビリファイは副作用として眠気が出ることもある。そうした薬剤の効果を利用して子どもたちの行動自体を鎮静している可能性がある。4歳以下の治験のデータはないため、その年齢層の子どもに投与された場合の安全性が確立しているかはわからない。仮に処方するのなら、その事実を医師が親に伝えなければならないだろう」

抗精神病薬に詳しい、たかぎクリニックの高木俊介医師も次のように指摘する。

「抗精神病薬には中枢神経毒性があることはわかっている。成人で長期に使用した場合は遅発性ジスキネジアという不随意運動(本人の意思とは無関係に身体に異常な運動が起きること)が3割以上の確率で起こる。エビリファイは遅発性ジスキネジアが起こりにくいといわれているが、経験的には長期に使用すればやはり起こる。それを4歳以下の心身の発達が本格化する前の子どもに投与するのは、理解できない」

子どもの行動の問題に対する安易な投薬は、安全性だけが問題ではない。(副作用や依存性についての詳細は、連載第2回「子どもに向精神薬を飲ませた親の深い後悔」を参照)。複数の医師や支援者が共通して問題視するのは、子どもの行動の裏側に隠されている家庭や学校でのトラブルが見えなくなることだ。

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