低年齢の「発達障害」、薬で隠される子どもの危機 独自調査でわかった「4歳以下」への投与実態

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「癇癪(かんしゃく)を起こした子どもは、なぜ起こしているのかを考える必要がある。イライラを子どもの脳が勝手に出している症状だと考えれば、薬しか手段がないように見えてしまう。だが、養育環境がその子に最適化されていないならば、その環境を調整するのが先だ」(井上医師)

井上医師は、「最後のやむなき手段であるはずの薬が、いつの間にか最初の手段になっているのが問題だ。苦しんでいる子どもたちが、かろうじて出したSOSサインとしての行動の問題に、薬物療法が選択されている」と指摘する。

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前出の安藤さんは、子どもが発達障害といわれて相談に来たある母親について、次のように話す。

「実は父親から母親へのDV(家庭内暴力)があり、その問題が解決したらお子さんが安定しました。自分の子が発達障害と疑われ、泣きながら相談していたお母さんの悲しみは、いったい何だったのでしょうか」

安藤さんは、「薬物治療をすべて否定しているわけではない」と前置きしつつもこう話す。

「その子は何が好きなのか。嫌がっているときにどうしたら落ち着くのか。周囲は、子どもについて知る時間が必要です。子どもの出す行動のサインを薬で抑えると、本来の子どもの姿がわからなくなります」

子どもが抱える裏事情を考える

前出の井上医師も、複雑な要因が絡み合って生じた子どもの問題行動を医療だけで解決しようとする「医療化」を問題視する。

「いじめや虐待などさまざまな絡み合った問題が、子ども自身の問題に矮小化されてしまうこともある。本人が弱い立場であればあるほど、家庭や学校、地域の大人たちは子どもの行動の“裏事情”を考える習慣が必要だ」。

前出の小児科医は、「子どもの逃げ場はどこにもなくなっている」と危機感を募らせている。「学校の先生や医師、専門家が寄ってたかって、子どものSOSを脳の問題にすり替えている。本人たちは『善意』でやっているため、お母さんもそこに頼りたくなる」

服薬の可否を自分で選べない子どもへの処方は、最も慎重であるべきだ。安全性が確保されていないにもかかわらず、子どもの声に耳を傾けず、薬が優先されることは断じて許されない。

しかし、「薬を飲みたくない」と声を上げても、なおその声を押し殺される子どもがいる。

(第4回はこちら「いじめを受けた発達障害の彼女が語る薬の闇」

【情報提供のお願い】東洋経済では、発達障害に関連する課題を継続的に取り上げています。こちらのフォームへ、情報提供をお待ちしております。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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