絶滅危惧種、小田急ワイドドア車の数奇な運命 開口幅は2m、混雑緩和の切り札だったが…

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6編成あった1000形ワイドドア車は、2020年から一気に廃車が進んで1754×6が最後の1編成となっている。感染症の関連からか、派手な引退イベントは行われない見込みだが、2022年1月には最後の1000形ワイドドア車を使用したツアーが開催された。

小田急電鉄の通勤車両は、製造から40年近く使用されることが多いが、1000形のワイドドア車は改造を繰り返したうえ、製造から30年程で姿を消しつつある。ロマンスカーのVSE車の倍近く長生きしているとはいえ、通勤車両としては比較的短命な車両だったと言えるだろう。

まだある小田急のワイドドア車

小田急電鉄では1000形の製造終了後もワイドドア車の製造が続けられた。1995年に登場した2000形もワイドドア車で、1000形ワイドドア車の実績を踏まえて扉の幅は1.6m(先頭車の乗務員室脇は1.3m)とし、扉間の座席は7人がけとしている。また、2001年に登場した3000形も初期の車両はワイドドア車で、2000形と同じ扉幅だった。だが、増備過程で標準仕様が盛り込まれ、扉の幅は1.3mに統一されている。

2018年に下北沢付近の複々線が供用され、小田急電鉄ではラッシュ時間帯に大幅な輸送力増強が行われた。これによってラッシュ時間帯の混雑が大幅に緩和され、ラッシュ対策を車両に求める必要性が薄れた。しかも、ワイドドア車は扉の幅が広いため、扉の位置がやや特殊となっているが、ホームドアの導入によって、扉の位置が特殊な車両が敬遠される事態を招いている。

とはいえ、ホームドア関連技術の進歩によって、ホームドアがワイドドア車の障害となることは過去に比べれば減った。2000形のようなワイドドア車も下北沢駅などのホームドアに対応できる。とはいえ、こうしてワイドドア車の歴史を振り返ると、まさに時代に翻弄された存在と言えるだろう。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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