日中"無表情"会談、あいまい合意の危うさ

国内世論に配慮した玉虫色の決着

4つの合意点のうちポイントとなるのは、①両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた、②双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が続いていることについて異なる見解を有していると認識、という2点だ。

第一次安倍政権で、安倍氏は「戦略的互恵関係」を唱えて、日中関係の安定化を図った(撮影:高橋孫一郎)

①は靖国神社に代表される歴史認識の問題、②は中国が主張している「領土問題の存在の受け入れ」を指しているとみられる。しかし、その表現は極めてあいまいで、日中双方が自国民に対して「こちらは譲歩していない」と説明できるようにしてある。

そこで想起されるのは、2006年10月に第一次安倍政権が発足した直後の訪中だ。当時争点となっていたのは、小泉純一郎氏が首相在任中に続けた靖国参拝を安倍氏も踏襲するのかということだ。

当時、安倍氏は、「靖国神社参拝は、中国及びアジアの人々の感情を傷つけ、日中関係の政治的基礎を損なう」とする胡錦濤国家主席(当時)に対して、靖国問題については「参拝するともしないとも言わない」と言明。そのうえで「戦略的互恵関係」というキーワードのもとで日中関係の仕切り直しを提唱した。

日中関係の修復を急ぐために、対立点はあえて「あいまいなままにする」という戦術で乗り切った格好だ。このとき中国側との事前交渉を取り仕切ったのも、外務事務次官在任中の谷内氏だった。

当時の中国では、胡主席がその政敵であった陳良宇・上海市共産党書記を2006年9月に失脚させたばかりで、「日本に弱腰」という国内の批判を押さえ込めるだけの強い立場にあった。今年7月に周永康・元党中央政治局常務委員への取り調べを公表し、政権基盤の堅さを内外に知らしめた現在の習主席に通じる。そして、中国の指導者があえて日本に歩み寄るリスクをとる背景という点で、2006年当時と現在は似たものが感じられる。

時間稼ぎには限界がある

今回の会談で両首脳は東シナ海などでの衝突回避のための海上連絡メカニズム構築などで合意しており、首脳交流を再開することの意義は大きい。「これで日本とのビジネスは”解禁”。中国の官も民も、日本側との接触がやりやすくなった」(経済産業省幹部)のは確かだろう。

しかし、ここから本格的に日中の関係が改善していくかどうかは予断を許さない。8年前と現在の大きな違いは、中国と日本の関係性の変化である。10年に日中の経済規模は逆転し、13年の中国の名目GDP(国内総生産)は日本の2倍だ。また、中国の輸出や輸入における日本の比重は8年の間に大きく低下した。こうした変化は、中国側の日本への姿勢をどんどん強気にさせている。それだけに、日本には中国との関係をどう再構築していくかのしっかりした構想が必要だ。「あいまい戦術」はあくまで時間稼ぎでしかない。

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