しかし、古いお客様に既存の製品を提供する過去のコミュニケーションでは、売れる数量や利益は増やすことができないジレンマがあります。古い顧客は、あなたに変わってほしくない(成長してほしくない)と願う恋人のようなものなのです。
逆説的に言えば、多くの歴史ある企業は古い(愛用してくれる)顧客によって小さな自己像、限られた売り上げに閉じ込められている状態であるとも言えます。
古い目標・コミュニケーション方法を手離す
新たな躍進には、多くの場合「古い顧客を手離す」という思い切った決断があります。旭酒造の桜井社長は著書『逆境経営』で、量を売ることを目指すのではなく、徹底的においしい酒を造ろう、酔うのではなく味わう日本酒を目指して舵を切った、と書かれています。
同じように、霧島酒造も「全国の人に飲みやすい、女性でも飲める芋焼酎」を製品開発のコンセプトにしています。既存顧客から離れ、古い自社像や古い製品コンセプトからも離れた英断が、新たな消費者を同社の製品に引き付け、驚くべき飛躍のきっかけとなったのです。
企業側は製品開発や新技術によって、より顧客単価の高い販売を成功させたいと願うものですが、古い顧客はたいていの場合、製品単価が上がることを好みません。古い価格帯だからこそ引き寄せられた顧客なのですから、ニーズが根本的に違うのです。
そのため単価を上げたいと思ったら、新単価を快く受け入れてくれる別の顧客に売る必要があります。古い顧客によって規定された自己像(自社像)から離れ、新しい顧客と関係を作り上げる自社をイメージできるかどうかが、飛躍か停滞かの分かれ道となるのです。
これは日本国内のスポーツ市場と、海外リーグの選手年棒が大きく異なる場合と似ています。1本のヒット、1本のシュートの報酬が10倍以上になる市場に彼らは移動したのです。
製品コンセプトの刷新は、古い顧客像から離れることで生み出されていますが、注目すべきもうひとつの改革は、社員との古いコミュニケーション方法も手離していることです。
桜井社長の著書『逆境経営』には、
などのユニークなスローガンが描かれていますが、これらの言葉は「試行錯誤」への挑戦を続けるため、ひとつの方法に固執して精神的に息切れしないために、また新しいことへの挑戦を続ける社長に「黙ってついてくればいい!」ではなく、社員一人ひとりが頭を使って主体的に動かないと、会社は危険なんだぞと健全な危機感を持たせるためと推測できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら