トルコが「イスラム国」撃退に消極的な理由 米国主導の反イスラム国同盟には乗らず

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だから、イスラム国への国際社会の反応はもっと意欲的であるべきで、現在の騒乱の根本原因の解消を目指すべきだというのがトルコの考えだ。その戦略の一環として、マーリキー前首相の派閥主義と決別するようイラク新政府に働きかけ、基本的な医療、教育、行政サービスをイラクの全国民に提供する新しい指導体制の支援が求められている。

シリアについては、アサド大統領を辞任させること以外に正常化への道はない。そのためには、米国および同盟国はシリア国内の各拠点を攻撃することを検討しつつ、穏健派の反体制勢力を保護するために飛行禁止区域を設定して避難場所を設けることが望ましい。

この点において、トルコは中心的な役割を果たすことが可能だ。この騒乱で居住地を追われたシリア人を受け入れる安全な避難場所を設けることが重要だ。トルコは2011年の騒乱発生以降、100万人を超えるシリア人難民を受け入れるなど、大きな負担を引き受けている。

イスラム国によるクルド人居住地への攻撃の後、12万人以上の難民がトルコ入りした週末があったが、その数は騒乱発生以降に欧州連合への避難を許されたシリア人のほぼ全数に相当する。

さらに多くのシリア人が居住地を追われる可能性も

イスラム国に対する組織的軍事行動が実行された場合、さらに多くのシリア人が居住地を追われるのは必至だ。だが、シリア人難民が国境を越えなければならないのはおかしい、というのがトルコの考えだ。シリア人難民のニーズにシリア国内で応えられるインフラを率先して構築したいとトルコは考えている。このようなプロジェクトは、飛行禁止区域に守られ、国際的に安全を保障された避難場所でなければ現実的ではない。

トルコにとってのイスラム国の脅威が、ほかのどの欧米諸国にとってよりも深刻なことを考えれば、対イスラム国の軍事行動に参加するしかトルコの選択肢はない。トルコ国内での勧誘活動や資金集めを防ぐ断固とした対イスラム国政策をトルコ国内で取ることがまず何よりも大事だ。国境警備の継続的な改善、外国人戦闘員の問題に関する欧米諸国の諜報機関との協力関係の強化も重要だ。

だが、米国とトルコが協力してイスラム国の撲滅に取り組むためには、まずは騒乱で荒廃したこの地域に一定の秩序を回復させるための長期戦略について、両国が合意を形成することが必要だ。

週刊東洋経済2014年10月25日号

シナン・ウルゲン 経済外交政策センター(イスタンブール)センター長

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経済外交政策センター(イスタンブール)センター長。元トルコ外交官。ブリュッセルにあるカーネギー国際平和財団欧州センターの客員研究員でもある。

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