今も心に残る風景、北海道「消えた鉄路」の記憶 相次いで廃止された赤字ローカル線を振り返る

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筆者は蒸気機関車時代からこれらの路線を訪れていたが、1980年に入ってある旅行関係の出版社から刊行した『全国ローカル線の旅』(檀上完爾/南正時・共著)で廃止対象線区をすべて取材した。とくに印象に残っているのは興浜北線で、オホーツクの海岸をへばりつくように線路が続く車窓は素晴らしく、神威岬の目梨泊灯台を大きく回り込むように走る最果て旅情たっぷりの車窓風景は今も心に残っている。

過酷な開拓の歴史も…

相生線では極めて個人的だが、北海道の鉄道の歴史を肌で感じる体験をした。筆者の母は幼い頃、家族で相生線の津別に開拓団として渡ったことがあり、それもあって1974年に筆者の仕事を兼ねて母と思い出の地、津別を訪ねた。奇しくも津別駅売店の店員の父親が母と幼馴染ということがわかり、母は60年ぶりに幼馴染と再会して積もる話に花が咲き、昭和初期の相生線の様子を語ってくれた。

そこで聞いた話はこうだ。網走監獄やタコ部屋労働の囚人が脱走して津別に逃げてきた。大勢の追手に観念した囚人は「捕まれば殺される」と思い相生線の線路を枕にして自殺を図ったが、近くの寺の住職がその男を寺に連れてゆき、匿って後々「寺男」として津別に住まわせたというのだ。

過酷な鉄道労働者、タコ部屋労働の話は知ってはいたが、現地で実際の話を聞けるとは思わなかった。北海道のローカル鉄道とその周辺には、厳しい開拓時代の出来事が伝わっていた。

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