2020年時点では台湾はコロナ対策の優等生として知られ、海外渡航は難しいものの台湾内では自由に活動ができた。活動的でリーダーシップもある智子さんは「日本に帰れない」日本人仲間に声をかけてカラオケ、飲み会、旅行を楽しんでいた。そして、年末の忘年会で仲間の家で食事会をした際、彰さんは智子さんを女性として意識し始める。
「手際よく何品も料理をする様子が意外だったからです。家に一緒にいる姿が頭の中に浮かびました」
九州と台湾で1年ほど遠距離恋愛中の恋人から、気持ちがますます離れ始めるきっかけでもあった。
けじめをつけようと電話で別れを告げたところ相手の女性は泣いてしまった。自分は首をひねったと彰さんは淡々と語る。
「ちゃんと付き合った後で遠距離恋愛になったら悲しかっただろうし、隔離も覚悟で呼び寄せたり帰国したりして結婚していたかもしれません。でも、2回しか会っていない人に対してそんな気持ちにはなれませんでした」
ややドライな感想であるが、こういう感覚も似通った者同士が一緒になるほうがいいのかもしれない。その相手こそが智子さんである。彰さんには一目惚れしたわけではなく、彼の帰国時期がわかったときから結婚相手候補として意識しはじめ、比較対象となる男性もいたと明かす。
帰国を機に結婚を決意
「5年も住んでいると、だいたいの日本人は先に帰国してしまうんです。彰さんはまだまだ台湾にいる人だと思っていたのに帰ってしまうことがわかり、私もそろそろ東京に戻ろうかなと思いました。
仲間の中にジャニーズ系のイケメン独身男性がいて、みんなは私と彼をくっつけようとしていたんです。面白いけれどまったく穏やかではない人で、私とはケンカばかり。それが仲のいい証拠のように思われていましたが、お互いに恋愛感情は1ミリもありません。彼よりは冷静で優しい彰さんだよな、この人と穏やかな家庭を作りたいと思いました」
大恋愛ではない相思相愛である。彰さんは「(智子さんを)連れて帰国するなら結婚だな」と決意を固め、台湾のリゾート地で婚約指輪を渡した。友だち期間のほうが長かった2人だが、帰国の直前は台湾でもコロナ禍が悪化し、外出のできない半同棲のような濃密な時間を過ごしたと彰さんはうれしそうに振り返る。
「飲食店がやっていないので、僕の部屋に料理を作りに来てくれました。僕は彼女に日本酒をプレゼントしたり。日本酒は今でも共通の趣味です」
彰さんは「胃袋をつかまれる」タイプなのだろう。知的に見えて意外と即物的な男性である。遠距離恋愛には向いていなかったのだ。
結婚して数カ月後に智子さんは不妊治療もせずに自然妊娠。お祝いでもらった大量の日本酒を飲むことができないでいるが、それ以外は東京都心のマンションで「まったく違和感のない」共同生活を過ごせている。出産直前まで、オンラインを使った日本語教師の仕事を続けるつもりだ。安定した有名企業を離れて独立開業への道を歩もうとしている彰さんのことも応援している。
「彼にストレスがかかりすぎない働き方であれば何でもOKです。サラリーマンでも自営でも私は気にしません」
筆者は海外に住みたいと願ったことは一度もない。日本人の半分ぐらいは生まれ育った場所の近くで暮らしたいと思っているのではないだろうか。一時期とはいえ好んで海外に渡って住み働く人たちはそれだけで「特殊」なのだ。性格は異なる彰さんと智子さんは価値観を共有できる相性のいい夫婦なのだと感じた。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら