外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか

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同氏のようなわずかな人々を除いて、虐待を受けた外国人労働者は誰にも頼ることができない。弁護士や支援団体によれば、警察は実習生の窮状を真剣に調査しない。日本の司法制度がまれに対応することはあっても真剣ではないことがほとんどだ。

「あるクライアントの中国人労働者は、日本人従業員にガソリンをかけられ火をつけられた。その従業員は暴行の罪にしか問われず、刑務所には入らなかった。被害者が日本人だったら、もっと厳しい判決が下されていただろう」と外国人労働者問題に詳しい弁護士の高井信也氏は言う。

実習先としての日本は魅力がない

外国人労働者は、母国に頼ることもできない。「フィリピンとインドネシアを除いて、大使館は動かない」と鳥井氏は言う。ベトナムでは、海外で契約した職場への出勤を怠ったり、逃亡したりした労働者を処罰する国内法があるほどだ。ランさんの場合もそうだが、被害者は日本や母国での報復を恐れて、メディアに顔を出すことができないのが一般的だ。

日本が人道的観点から実習制度を廃止しないのであれば、せめてシニカルな、または、実利主義的な観点から廃止すべきだろう。先般、国際協力機構(JICA)などが発表した研究によると、日本が経済の成長目標を達成するためには、外国人労働者の数を2040年までに170万人から640万人へと4倍にする必要があるという。

そのためには、外国人労働者の人権問題に目をつぶることはできない。外国人労働者から見た世界各国の魅力を比較した参考サイト「MIPEX」によれば、「日本の取り組みは、同じように移民人口の少ない貧しい中欧諸国よりもわずかに進んでいるが、韓国をはじめとするほかの先進国には大きく遅れをとっている。隣国の韓国に比べて、日本では、労働市場、教育、政治参加、差別撤廃などに関して外国人に対する統合政策が弱い」。

日本の実習制度が、世界中の外国人労働者から日本が嫌われることを目的としているのであれば、それは非常に効果的だと言えるだろう。そうでなければ、日本はランさんの加害者を罰し、そして、この人種差別的で残酷で偽善的な制度を一刻も早く廃止するべきではないだろうか。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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