外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか

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過酷ないじめはすぐに始まり、病院に行かなければならないほどの激しい蹴りを受けたとランさんは言う。暴行の結果、肋骨を骨折し、歯が折れたこともあると主張する。ランさんはまた、「日本人の従業員が私に一度も仕事を教えてくれることもなかった」と言う。

ランさんは足場組みで時給844円を支払われていた。月収は約11万円で、そのうち1万5000円が家賃や光熱費として差し引かれたが、月に7万円を家族に仕送りしていた。それでも、解雇され、強制送還されるかもしれないという不安から、しばらくひどい待遇に甘んじていた。

見過ごした監理会社の大きな責任

だが、ついにいじめは耐えがたいものとなり、昨年10月、ランさんは脱走し、最終的に地元の労働組合「福山ユニオンたんぽぽ」に保護された。

「建設業界にいじめの問題があるとはいえ、あそこまでひどいケースは見たことがなかった」と執行委員長の武藤貢氏は話す。「監理団体は配属先を移すべきだったし、少なくとも彼の体調や睡眠状態などを聞くべきだった。いずれの手も打たなかった監理団体の責任は大きい」

ランさんの場合、事の結末は比較的幸運なものとなった。日本での技能実習生を監督する外国人技能実習機構(OTIT)が彼を別の管理会社に移管することになり、来年10月にビザの有効期限を迎えるまで別の会社に勤務することが決まったのだ。

武藤氏によると、ランさんは問題の建設会社に謝罪を求めており、建設会社と個別にやり取りをしている。建設会社はおおむね事実を認め、謝罪する方向のほか、補償についても謝罪の内容に応じて検討する予定という。謝罪と補償があれば、警察への告訴はしないという。一方、監理団体については事実を確認しているという。

もっともたとえ補償があったとしても、「ベトナムにはまだたくさんの借金が残っている」とランさん。彼は10月に日本を離れる予定で、おそらく二度と戻ってこないだろう。

「外国人技能実習生に対する虐待などの人権侵害は断じて許されないものだ」と古川禎久法相は、ランさんに対する暴力の動画を見た後に述べている。古川法相は入国管理局に事件の調査を命じた。また、外国人技能実習制度などのあり方に関する勉強会も始めるとしている。

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