水ビジネスの幻想と現実[2]--日本勢唯一の“独壇場”に異変、水処理膜の覇権争い

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 世界第2位となるのは豪ヴィクトリア州の海水淡水化プラント。造水量は一日44万トン、同州メルボルンの年間給水量の3分の1を賄える。逆浸透膜を納入するのは日東電工だ。
 菊岡稔・メンブレン事業部長は「米国の本部が有する広範な人脈・営業ネットワークが功を奏した」と説明する。一般に海水淡水化プラントを建設する場合、発注者側がそのノウハウを持っているケースはごくまれだ。したがって実際の建設に当たっては、水処理のコンサルタント会社が政府や自治体から仕事を請け負って水処理プラントの計画を進めるのが通常である。膜メーカー側にとっては、いかにこうした水処理コンサルタント会社と密接な関係を築いているかが重要になる。

この点、日東電工に優位に働いているのが、実質的に水処理事業の中枢を担う米国子会社ハイドロノーティクス社の存在である。1987年に買収したこの水処理膜メーカーは、米国だけでなく世界の水コンサルタント会社と広範なコネクションを有している。「水ビジネスは一見グローバルに見えるけれど個別の案件はかなりローカル。各地での密接な関係構築が欠かせない。20年以上の水処理膜事業の中で、われわれにはその蓄積がある」(菊岡部長)。

ローカルに根を張ったビジネスといえば東洋紡にも定評がある。同社の水処理膜売り上げ(推計数十億円)のうち大半が中東向けで、同市場では5割ものシェアを有する。東洋紡の名が同地に定着していない約20年前から、デモンストレーション用の水処理プラントを積み込んだトレーラーでアラビア半島の顧客を駆け回り効果をアピール。ドブ板式の「トレーラー営業」で、現地の評判を固めていったという。

高い技術力、強力な営業ネットワークで先行する日本企業。しかし問題は、市場が拡大する中で今後もこの優位性が続くのかどうかだ。

水処理膜は参入障壁が決して高いわけではない。今の業界標準であるポリアミド型逆浸透膜の基本特許は79年に米国の政府系機関研究者によって出願され、99年にすでに満期を迎えている。半導体のように1工場1000億円単位の大掛かりな設備投資が必要なわけでもない。日東電工は09年滋賀県に逆浸透膜の新工場を建設して生産能力を1・6倍に高めたが、それにかかった投資金額も60億円程度で済んだ。

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