水ビジネスの幻想と現実[2]--日本勢唯一の“独壇場”に異変、水処理膜の覇権争い
逆浸透膜より目が粗く、技術レベルが低いUF(限外濾過)膜・MF(精密濾過)膜のような製品にはすでに100社超のメーカーがひしめいていると言われ、日本企業のシェア合計も3割程度にとどまる。それに比べると逆浸透膜はまだ数社の寡占的市場であり、競争圧力は強まってはいない。しかし、それも時間の問題と言えるかもしれない。
北京に急成長の新興企業 欧米企業は膜で買収攻勢
有力な新興逆浸透膜メーカーのうち1社が中国北京にある。「5~10年のうちに、世界トップ3入りすることが目標」。そう野心を燃やすのは、中国系で最大の逆浸透膜メーカー、ヴォントロン・テクノロジー社(以下、ヴォントロン)の蔡志奇CEOである。
同社の設立は00年末。米国からの技術導入によって開発を進めつつ、04年より逆浸透膜の本格的な量産を開始した。以後、現地自治体の給水処理や海水淡水化施設、飲料メーカーの純水製造用に受注を積み重ねて業績は急成長中。創業以来の売上高の平均成長率は年40%に上るという。
中国市場でのシェアは8インチ型で6~8%、4インチ型で約3割を占める。「少なくとも中国市場では世界の競合に決して引けを取っていない」(蔡CEO)。それはある意味で当然な背景がある。ヴォントロンの株主構成は国有の鉄道用車両会社が42%、政府系研究所が38%を握る。水処理施設のようなインフラ需要を取り込むには、この“国営色”はどうあっても強い。
詳細は非公表とするがヴォントロンはすでに複数の国家・省級のプロジェクトを引き受けたようだ。中国国内の水処理膜メーカーの中で、ヴォントロンの技術は卓越している。研究開発チームに多くの博士取得者を擁し、いくつかの型番の逆浸透膜については99・8%の脱塩率を達成しているという。この99・8%という数字は、ちょうど世界第2位の日東電工が公表する逆浸透膜の脱塩率と同じ水準である。
欧米諸国に目を転じると、今度は巨大企業が豊富な資金力を武器に次々と膜メーカーを買収し、事業展開を加速させている。米GEは00年以降、二つの大手膜メーカーを買収した。逆浸透膜の老舗だった米オズモニクス社を03年に、06年にはUF膜・MF膜で世界首位だった米ゼノン社を約7億ドルで取得した。独電機大手のシーメンスは04年5月にアメリカの水処理膜大手のUSフィルター社を仏ヴェオリアから10億ドルで取得し、水処理ビジネスへの本格参入を表明した。