トヨタ自動車、「軽」参入の不可解
極めて不思議な提携話である。
トヨタ自動車は9月28日、子会社のダイハツ工業<7262>から軽自動車のOEM(相手先ブランド生産)供給を受けることを明らかにした。2011年秋から始め、「ムーヴ コンテ」など3車種で展開。販売6万台規模を目指す、という内容だ。
国内では、維持費が安く、車格や装備の向上が著しい軽自動車の人気は高まるばかりで、2009年度は国内新車販売の35%を占めるまでになっている。「将来はこの比率が半分になるかもしれない」(ホンダの伊東孝紳社長)という見方もある。
国内シェア最大のトヨタは、エコカー補助金が9月下旬で失効した後の逆風を最も強く受ける。自社マークのついた「軽」で品揃えを強化したい気持ちはわかる。
ダイハツにしても、自社ブランドでの国内販売シェアこそ35%(2009年度)で1位だが、生産ベースでは、日産自動車やマツダに広くOEM供給するスズキと競っている。トヨタへのOEMは、手っ取り早い量産効果を生むはずだ。
「ヴィッツ」刷新前になぜ?
だが、「T」バッヂを付けた軽は強力な存在だ。トヨタとダイハツという親子間でカニバるおそれがある。トヨタは全国のカローラ店、ネッツ店のほか、軽比率の高い地域ではトヨタ店、トヨペット店も加えた4チャネルで全面展開する意向だ。その数は全国3000店規模にも及ぶ。6万台÷3000店、1店20台の計算になるが、それで済むのかどうか。
カニバリゼーションの懸念はトヨタ内部にもある。2004年からダイハツが生産し両社で売る「パッソ(トヨタ名)/ブーン(ダイハツ名)」は、トヨタにとって今やプリウス、ヴィッツ、カローラに次ぐ人気を誇る。今後OEMされるダイハツ「ムーヴ コンテ」も広い室内空間に定評がある。
トヨタは間もなく、ヴィッツのモデルチェンジを控えている。同じ車格だと、「タイ生産が話題の日産『マーチ』、ハイブリッド版が出るホンダ『フィット』と比べて、これ、というパンチに欠ける」(業界関係者)といわれる新型ヴィッツ。ユーザーが、1年待って「ムーヴ コンテ」に流れるおそれもある。問題は、自社車とOEM車が生み出す利益にはおのずと差がある、という事実だ。
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