「コロナ禍の相続」が大トラブルに陥る納得の理由 実は「遠方の兄弟が集まれない」など問題が山積

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そもそもコロナ以前より、値動きのある株式など有価証券の遺産分配には、数多くの問題点がありました。上場株式などの有価証券の相続税評価額は、相続開始時の価格、またはその前数カ月の価格を基準として算出されます。すると、相続開始から名義変更して相続人自身の財産となったときには、株価が下がって財産額が目減りしてしまう可能性があるのです(反対に株価が上がって財産が増える可能性もありますが……)。

私が直接担当したわけではありませんが、コロナの発生直前に相続が発生し、遺産分割協議で株式を相続した方が、2020年3月に国内での新型コロナウイルスの感染拡大にともなって株価が大暴落し、相続した株式の時価がコロナ前の4分の1まで下落してしまったケースもありました。

この方は、「株価の暴落は予想できなかった」と遺産分割協議のやり直しを主張するも、財産の名義変更はすでに完了しており、他の相続人が再協議に応じなかったため、親族間でのトラブルに発展してしまいました。

仮に相続人全員が合意すれば遺産分割協議のやり直しも可能ですが、株価下落で相続財産が減るのが確実な状況で、あえて再協議に応じる相続人はなかなかいないでしょう。さらに、財産の名義変更まで済ませている場合には、やり直しにかなりの手間や費用もかかってしまいます。その間に相続財産の時価が変動してしまう可能性もあります。

こうした点からも、財産の名義変更など相続手続きを必要以上に長引かせることは避けたほうがよいといえます。

誰が中心になって相続の話を進めるのか

葬儀や法要などで人が集まる機会が少なくなったコロナ禍での相続は、「いつから、誰が中心になって相続の話を進めるのか」が見えにくくなり、ふと気がつけば手続きの期限が迫っていた、というパターンに陥りがちです。

手続き面での不安などがある場合には、専門家に依頼してしまうのも1つの手でしょう。遺産をどのように分けるかを決めるのは相続人の意思ですが、その後の手続きに関しては早めに専門家に任せることで、スピード感をもって進められますし、手続きが後手になるといったリスクも避けられます。

相続とは「ヒト・モノ・意思」の確認作業が何よりも重要です。コロナ禍で相続手続きが進めにくくなっている現状を考えると、親などには自分の「意思」を明確にしてもらい、家族間トラブルを防ぐためにも、生前に遺言書を残しておくようお願いしておくなどの対策がこれまで以上に大切になってくるでしょう。

高齢の親御さんたちも、「コロナ禍で人が集まりにくくなった」ということは実感されているはずです。コロナが相続にも大きく影響していることを伝えれば、これまで生前対策を先送りしてきた方も第一歩を踏み出すきっかけになるのではないでしょうか。

加藤 健司 行政書士(OAG行政書士法人)

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かとう けんじ / Kenji Kato

愛知県出身。2015年に行政書士登録、OAG行政書士法人入社。以降、個人顧客を対象に500件以上の相続・遺産整理支援業務に携わる。また、葬儀社などにおける相続・生前対策セミナー、相談会も多数行っている。

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