国立女子大で相次ぎ「工学」分野の学部新設のなぜ 今春に奈良女子で、24年度にお茶の水が設置へ

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奈良女子大で工学部の構想が一気に現実味を帯びたのは、奈良教育大学との統合が大きい。法人統合後も両大学は存続するが、教育課程を共同で実施するなど、大学の枠を超えた改革を進めることになった。工学部の新設はその1つ。2018年より教育大と協力して計画を進め、約3年の準備期間を経て2022年4月に定員45名で工学部をスタートする予定だ。

受験や大学経営に詳しい大学通信の安田賢治さんは、「近年、複数大学の統合や再編の動きが活発になっています。共学を希望する高校生が増える中、女子大の存在意義も一層問われているのではないでしょうか。そんな中で、就職に強い情報科学系を学べる工学部の新設や、手厚いキャリア支援は大学の強みになるでしょう」と話す。

女子大で学ぶ意味

筆者自身は、女子大出身ではないが、国立の理系学部の大学院に進学した。研究室では女性1人という状況に、マイノリティーとして居心地の悪さを感じた経験がある。

女子大で学ぶ意味は、どのようなところにあるのだろうか。

「共学の工学部では、女性は2割にも満たず、男性が多数派な環境です。そうすると男性に重要な役割を譲ってしまうなど、遠慮することも多くなるでしょう。そういうことがない環境が、女子大の最大の利点です。前に前に出るほど、リーダーシップをとるほど評価される環境で、自分の個性とキャリアの基礎体力を身につけることができます」(藤田教授)

お茶の水女子大学生活科学部の卒業生で、生活工学を学んだ藤井さんは、「大学選びや入学後に女子大を意識したことはほとんどありません。大学を選んだ理由は、暮らしを豊かにするという視点からテクノロジーを学びたいと思ったからです。世間一般からみると、工学女子はマイノリティーだということにまったく気づかずに学ぶことができたのは、振り返ってみると、よかった点かもしれません」と話す。

女子大は、他大学に比べ、工学系の女性教員の割合が高いのも強みだ。学生は多くのロールモデルに出会うことで、自分の将来を具体的に思い描くことができる。

しかし、社会に出れば、圧倒的に男性中心の社会に飛び込むことになる。女性が働きやすい職場環境を整えることも喫緊の課題だ。男性社会の中で、卒業生がやりたいことを実現するために、大学や大学院で、どういうベースを与えたらよいのか両大学も課題を感じているという。

ICT革命の時代、エンジニアリングにより世界が大きく変わろうとしている。女性エンジニアが当たり前に活躍するようになると、世界はいったいどのように変わっていくのか楽しみだ。女子大工学部から新たに生まれる卒業生たちが、そんな未来の導き手になってくれるかもしれない。

柳澤 聖子 編集者/ライター

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やなぎさわ せいこ / Seiko Yanagisawa

1979年生まれ、愛知県出身。大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻修了。約16年間、ベネッセコーポレーションにて理科・自然科学系の教材を企画開発。その後、独立しフリーランスの編集者兼ライターに。子育て、家族、働き方、子どものSTEM教育などを中心に執筆活動をおこなう。2児の母。

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