DNA採取、声と顔を記録「ウイグル」恐ろしい実態 少女メイセムの日常は2016年夏から狂い始めた

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私はオンライン上で「全民健康体検」の仕組みを説明する入札書類や政府発表を見つけたが、それらの資料はのちにネット上から削除された。

「県の衛生・家族計画委員会は各地で医療ユニットを組織し、参加必須の健康診断のなかで血液情報とDNA血液カードを収集すること」と、ある県当局のウェブサイトの資料には書かれている。

「血液情報は県の公安部に送られ、DNA血液カードはそこで検査される」「公安部は12歳から65歳までの住民の外見の写真、指紋、虹彩スキャン、そのほかの生物学的な特性情報を収集しなければいけない」と別の資料には書かれていた。

ウイグル人に話を聞くと、必ずといっていいほど強制的な医療データ収集の話題が出てきた。

「同意を拒むことなど誰にもできません。そのような環境で拒めるはずがありません」と詩人のタヒル・ハムットは言った。2017年5月、彼も家族とともに警察署で同じような検査を受けたという。

「政府は可能な限りすべてのものを測定し、それをデータベースに入れました」と著名なウイグル人実業家のタヒル・イミンはインタビューのなかで私に語った。「それは、監視と管理のための大規模なDNAサンプル収集キャンペーンでした」。そして、その技術の一部はアメリカから来たものだった。

すべての遺伝子プロファイルを集める

中国がマスデータを収集していたのは、遺伝学者のあいだで「短鎖縦列反復配列」(STR)と呼ばれるマーカーを使った分析処理のためだった。各個人には固有のSTRプロファイルが存在する。遺伝学者は血液を調べることによってプロファイルを解析し、そのプロファイルを使って個人を特定することができる。

『AI監獄ウイグル』(新潮社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

世界中の警察が行っているように、犯罪現場でDNAが見つかった場合、大規模データベースと照合して容疑者を割りだすことができる。しかし中国のプロジェクトはもっと壮大なものだった。

中国政府は、新疆に住む12歳から65歳のすべてのウイグル人、カザフ人、そのほかの少数民族の遺伝子プロファイルを集めることをもくろんだ。構築されたデータベースは法執行機関の捜査のためだけでなく、それらの少数派を多数派の漢民族から区別するために使うこともできた。

「中国は、完全な安全保障の神話とでも呼ぶべきものを生みだそうとしている。それは、技術の発展によって、すべてのテロを防ぐ完璧な安全保障システムを構築することができるという考えです」と、カナダのウインザー大学の社会学者マーク・ムンステルヒェルムは私に語った。「彼らはすべてのウイグル人、カザフ人、そのほかの少数民族のプロファイルを手に入れようとしている」

翻訳:濱野大道(はまの・ひろみち)/翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了。訳書にロイド・パリー『黒い迷宮』『津波の霊たち』(早川書房)『狂気の時代』(みすず書房)、グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』(光文社)、レビツキー&ジブラット『民主主義の死に方』(新潮社)などがある。
ジェフリー・ケイン 調査報道ジャーナリスト/テックライター

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Geoffrey Cain

アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿。2020年発表のデビュー作Samsung Rising: The Inside Story of the South Korean Giant That Set Out to Beat Apple and Conquer Tech(『サムスンの台頭』[未訳])はフィナンシャル・タイムズ紙とマッキンゼー社が主催するビジネス本大賞候補に選ばれた。現在はトルコ・イスタンブールに在住。Twitter:@geoffrey_cain

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