「CES」で見えた「ソニー電気自動車参入」の本気度 吉田社長が重視してきた「人に近づく」の真意
スポーツの領域でも、より高い娯楽性を提供する技術を巧みに組みわせて提供している。
日本では東京ヤクルトスワローズが選手をサポートするために導入したことで知られる「ホークアイ」の応用についても吉田社長は言及した。
ホークアイはウィンブルドンで広く知られるようになった、ボールの軌跡を正確に追いかける技術だ。当初はボールの軌跡を追跡するだけだったが、現在ではプレーヤーの骨格までを認識するため、ピッチの中での選手の動き、体の使い方などをリアルタイムで追跡できるようになっている。
東京ヤクルトスワローズの例では、これを選手のフォームチェックなどに使い、怪我からの復帰時、以前とどのような部分が異なるのかといった部分までを分析できるようになっているようだ。
しかしホークアイの技術をエンターテインメントに応用することもできる。
というよりも、ホークアイは元々、判定に使うのではなく、さまざまな情報をリアルタイムに計測、分析して観戦者にビジュアルとして見せることでエンターテインメント性を高めるという意図で開発されたものだった。
そこで今年からソニーは、英プレミアリーグのマンチェスターシティと提携、ホークアイを用いることでスポーツビジネスの新しい可能性に挑戦する。
新型コロナウイルスの影響で必ずしもスタジアムに集まれない状況の中、ホークアイを用いてプレーの様子をデータ化し、そこから再現するバーチャルなプレイシーンと実映像を組み合わせたファンコミュニティーを作る実証実験を行うという。
自動運転EV時代のソニーの価値
さて、このようにCESでの発表内容をひもといていくと、発表されたソニーモビリティの意図も見え始めてくる。
EV参入を目指す新子会社のソニーモビリティには、既存製品のaiboやAirpeakも移管される。
aiboは周囲の環境を把握し、近くにいる人が誰なのかを識別しながら動作し、また個人ごとの接し方、話し方などによって振る舞いが変化するAIが搭載されている。こうした技術はドライバーとパッセンジャーが自動運転中のEVの中でどのように心地よく過ごせるようにするか、という方向へと転換できる部分だ。
ドライバーが直接運転する場面が減ってくる今後を考えるなら、ドライブフィールなどの価値よりも、いかに自動運転での移動体験の質を高めるかに商品としての価値の中心が移り変わっていくだろう。
VISION-Sではドライバーやパッセンジャーごとに、ディスプレーコンソールのデザイン、表示内容、レイアウトなどが変化し、その振る舞いを車自身が注視しながらドライバーにアクションを促したり、適切なコンテンツを提案するという。さらにハンドリングやアクセル操作への応答性といった、ドライバーの好みに依存する要素も自動的に切り替わるなど、徹底して‟パーソナライズ”された体験になる。
これもドライバー、パッセンジャーに近づくということだろう。
高性能なCMOSイメージセンサー、300メートル以内の物体への距離を立体的な深度映像として検知できるToFセンサーなど、センサー類、オーディオ&ビジュアル分野での知見と経験の深さも活かし、EVの付加価値を高めようとしている。そこに「ソニーの存在意義」を見つけたからこそ、本格的な参入に向けての準備を決断したのだろう。
ソニーグループは新しい事業環境に適応すべく進化を果たすことに成功したのかもしれない。
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