新しい価値生み出せない企業の「人材採用の問題」 名経営者には「転結」を担う「名番頭」がいた

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この「起承転結」理論を推進するようになったのは、いまから7年ほど前に、次の時代の人材育成について、友人たちとプライベートで話をした機会がきっかけです。その会は、事前に決めたテーマに沿って参加者それぞれが「いちばん面白いと思っている人」を連れてくるというものでした。

そのときに集まった1人のメンバーから提案されたのが、この「起承転結」理論という概念です。「起承転結」を切り口に、人材育成や組織改革を考えたら面白いんじゃないかと盛り上がり、以後、私は7年間ずっとこの理論に従って、自ら新規事業開発や事業の構造改革を進めながら発信し続けてきました。

その後、メンバーの1人であり、大手企業で人材育成や顧客との仕組みづくりをやっていた友人が独立して、起承転結社という会社を立ち上げて、とてもユニークな研修をやりはじめました。いまでは、彼とも連携して「起承転結」理論を広めているというわけです。

名経営者には、「転結」を担う名番頭あり

日本の企業発展の礎を築いた創業者も「起承転結」で分析してみると、多くの創業者を「起承」タイプに分類できます。戦後の焼け野原のなか、「日本を世界と戦える国にする。そのために○○の分野で世界一になるんだ」と熱く夢やロマンを語り、世の中を変えてきました。

日本の企業が面白いのは、「起承」を担う創業者には必ず「転結」を担う番頭さんがおられたことです。トヨタ自動車の豊田佐吉・喜一郎さんには石田退三さんが、ホンダの本田宗一郎さんには藤沢武夫さんが、そしてパナソニックの松下幸之助さんには高橋荒太郎さんが、ソニーグループの井深大さんには盛田昭夫さんという名番頭が、「算盤と実行力」で現場を取り仕切っておられました。

「起」と「承」を兼ね備えた創業者が「新しい軸」を創り、そこから派生したビジネスアイデアを、「転」の人間が指標を策定して、市場を分析し、具体的な事業計画を立てます。そうやって決まった計画を、「結」の人間がQCDを守ってやっていく。そういった仕組みで日本はこれまで成長してきたんですね。

「この領域なら勝てる」というところが見えてくると、その領域に特化した戦略を策定し、リスクをきっちり管理しながら事業を成長させていきます。領域が定まれば、「転結」をきっちり効率的に回し続けていくと利益は増えていきます。

このように創業者が見つけた市場を、「転結」の人材が効率的に回すことで日本の企業は成長してきました。ところが創業者がいなくなり、30年、50年と同じやり方を続けてくると、ビジネスモデルの賞味期限も切れてきます。これまでのように業績指標を策定してリスクの最小化をはかるだけでは、食べていくことができないことがわかってきました。

そこで、新しいことを生み出す「起承」の人材が再び必要になってきたんですね。ここ数年、「イノベーションが必要だ」「デジタルトランスフォーメーションに乗り遅れてはいけない」といったことが叫ばれているのは、「転結」的な従来の事業モデルでは生き残れないというのが本質的な理由なのではないかと思います。

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