円安シナリオの死角、日銀の政策正常化はあるか 世論が「悪い円安」となればレジームチェンジも

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その兆候がないわけではない。昨年12月22日には安倍晋三元首相の秘書官と補佐官を務め、政策決定に深く関与してきたと言われる今井尚哉氏がロイターとのインタビューで、日銀の金融政策に関し、急激な円安を防ぐため「金融緩和の出口は時期尚早だが、将来はありうるとのメッセージを出す必要がある」と述べている。

今井氏は秘書官を退いているが、現在はエネルギー政策を担う内閣官房参与であり、発言は相応に無視できない。もちろん、「将来はありうるとのメッセージを出す」くらいの話で円安基調が変わるとは思わないが、見通しにおいて円安の度合いは小幅に修正されるだろう。

総裁交代のタイミングでのレジームチェンジ

ここからはさらに邪推となるが、2013年4月から上がる見込みのない物価に拘泥して緩和路線を継続してきた経緯を踏まえると、金融政策の方向転換が図られる時はレジームチェンジ、すなわち総裁交代(2023年4月)と同じタイミングという可能性も十分考えられる。

金融所得課税や自社株買いガイダンス見直し、経済正常化よりもコロナ対策を最優先する姿勢など、何かにつけて「金融市場に優しくない」という岸田政権のイメージに照らせば、金融緩和で消費・投資意欲を焚きつけようとするリフレ思想とは距離を取った執行部が選好される可能性はある。8年間続いたリフレ政策が当初の威勢の良さとは裏腹にほとんど成果を上げられなかったことを思えば方向転換は自然な結末でもある。

仮に、総裁交代まで含めたレジームチェンジに至った場合、シンボリックな政策決定は正常化に関し「将来はありうるとのメッセージを出す」程度では済まないのではないか。可能性は非常に低いだろうが、マイナス金利解除などは円安を抑えたい世論の歓心を買いやすいかもしれない。

もちろん、そこまでの展開が2022年中にあることを市場参加者は想定していないし、実際に可能性は高くない。ただ、仮に日本側から円安・ドル高シナリオを覆す材料があるとすれば、そこまで振り切った話くらいしか考えられないのも事実である。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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