円安シナリオの死角、日銀の政策正常化はあるか 世論が「悪い円安」となればレジームチェンジも

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岸田政権発足以降の動きを見る限り、政権およびその背後にある世論は新規感染者数の水準こそ最も重要な価値判断基準である。今後、感染者数の顕著な増加傾向を確認すれば世論の納得を得るために行動制限の強化に走る可能性が極めて高いように思える。参院選勝利に資すると判断すれば、昨年のように緊急事態宣言やまん延防止の期間が長期化することもありうるだろう。

それがGDP(国内総生産)成長率にどれほど悲惨な結果をもたらすのかは2021年で実証済みであり、実質的な感染拡大防止効果も不明だが、少なくとも国政選挙を控える以上、「成長よりも行動制限」が政府・与党には最善手であり、日本の成長に賭ける円買い戻しは期待薄とみておきたい。

「悪い円安」「インフレ」という世論が高まるリスク

しかし、円安自体に世論のアレルギー反応が出始めている現状を踏まえると、政府・与党がこれを放置する難易度も徐々に増してくる可能性はある。そうした政府・与党の状況を横目に日銀が動く可能性は絶対にないとは言えないだろう。

その論調に賛否はあるが、「悪い円安」というフレーズが跋扈していることは政府・与党にとって愉快な話ではないと考えられる。「円安に良いも悪いもない」という主張は正論ではある。しかし、世論の不満を政治は放置できない。世論を斟酌した政治的意思の前では、理論的な正道をいくら説いてもほとんど聞いてもらえないことは2013年当時、リフレ政策に対する反論が一切聞き入れられなかったことからも明らかである。当時から円安は海外への所得流出を招くだけという反論はあったが、かき消されていた。

安倍政権下で起きた金融政策のレジームチェンジは従前の超円高が輸出企業を中心とする企業部門に痛みを強いたという原体験から生まれた側面が大きい。とすれば、円安が国内物価上昇を招き家計部門に痛みを強いれば、その原体験から円安を抑止するような金融政策が取られても不思議ではない。あくまで政治やそれに付随する金融政策は世論の気持ちがよくなる方向に修正される。それが今のところ、「円安進行の阻止」になる可能性は徐々に高まっているように見受けられる。

2022年、仮に大方のメインシナリオ通りに円安が進めば輸入物価経由の一般物価上昇(実質賃金下落)は必然的に社会問題化するだろう。そうなれば、ここまで金融政策に関心を示していない岸田政権も何らかの動きを示す目が出てくる。

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