トヨタのEV戦略を訝る人がたまげた隠し技の衝撃 2030年までにBEV30車種、350万台販売計画の神髄

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さらに全日本ラリー選手権ではノリさん(勝田範彦選手)、S耐ではルーキーレーシングのドライバーが活躍していますが、プロのドライバーの運転技能を織り込んで、より安全、よりFun to Driveなクルマができるという期待値、そして私のようなジェントルマンドライバーが同じように走れるクルマが、このプラットフォームによって作れる可能性が出てきた……これが大きな変革だと思います。

ただ、制御で味付けしただけでは伸びたうどんに天ぷらを載せるような感じにしかなりません。この十数年、TNGAをはじめ、ベース骨格、足回り、ボディ剛性など、『もっといいクルマをつくろうよ』という掛け声のもとで、地道なカイゼンを行ってきました。そして、下山コースを作り上げ、クルマにより厳しい条件での開発も進んでいます。

つまり、単なるビジネスマターではなく、ドライバー・モリゾウとして、『こんなクルマがあったらいいな』というクルマづくりを織り込みたいと思うようになりました」

この時の表情は、筆者にはトヨタの豊田章男社長からモリゾウに変わったような気がした。

そして豊田社長の言葉を筆者なりに解釈すると、豊田社長はこれから発売されるBEVはこれまでのBEVとは違うと自信を持っているということだ。この発表の前に登場したレクサスUX300eのユーザーは複雑な心境だと思うが、豊田社長はギリギリながらも「合格点」を与えていることを付け加えておきたい。

これから出てくるBEVへの期待

以前、豊田社長にインタビューをした際に、「僕はいちばんのトヨタのクレーマー」と笑いながら教えてくれたことがあるが、それは結果として今回のBEVにも強く活きているような気がする。なぜなら、今後出てくるBEVはマスタードライバーである豊田社長による「最後のフィルター」をクリアした製品なわけで、それはすなわち「BEVに興味を持っていない人が、納得できるBEVって何だ?」という部分がクリアになった仕上がりとなっていることに期待ができるはずだ。そういう意味では、トヨタにとって本当の意味での「選択肢」が生まれたと言っていい。

これまでのトヨタのBEV戦略に欠けていたのはハードでもソフトでもなく、実は「パッション」だったと筆者は分析している。

山本 シンヤ 自動車研究家

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やまもと しんや / Shinya Yamamoto

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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