「遺言書と遺書は違う」意外と知らない相続の話 家族が集まる年末年始にこそ話し合ってみて

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しかしご自身で作成するため、遺言書としての形式を満たしていなかったり、内容に不備があったりして、無効になるケースも少なくありません。また、遺言書の紛失や、第三者による偽造や変造といったリスクも無視できません。相続の際には、家庭裁判所による「検認」という手続きが必要です(最近は、法務局で自筆証書遺言書を保管するサービスが始まり、保管された自筆証書遺言書の検認は不要となります)。

②公正証書遺言:安全で確実な遺言書の形式

公証役場にて証人2人以上の立会いのもと、遺言者が口述した内容を公証人が書き取って作成します。原本は公証役場に保管されるため、紛失の危険もなく、検認も不要です。最も安全で確実な遺言書の形式です。何らかの理由でご自身では文字が書けない人でも、公証人がその事由を付記して署名に代えられるので、遺言書の作成が可能になります。
 デメリットとしては、遺言書に記載する財産の額に応じた手数料が発生します。例えば、財産額が100万円以下なら5000円、5000万円から1億円までの間なら43000円といった具合で、内容に応じた手数料加算もあります。また、利害関係のない第三者の証人を確保する手間もかかります。

③秘密証書遺言:遺言内容を秘密にしたい場合に用いる形式

遺言者または第三者が書いた遺言書に、遺言者が署名と押印をして、封筒に入れて封印のうえ公証役場に提出します。遺言者と証人が封紙に署名、押印して完成します。遺言の存在は公的に認められますが、内容は秘密にしておくことができます。

ただ、自筆証書遺言と同様に、形式や内容に不備があると無効になるケースがあります。家庭裁判所による検認も必要です。また、一律11000円の手数料が発生します。

以上の3種類のうち、実際には①の自筆証書遺言か②の公正証書遺言のどちらかを選ぶケースがほとんどです。

最も手軽なのは自筆証書遺言だが…

最も手軽なのは自筆証書遺言ですが、先に述べたとおり形式の不備や内容の不明確さによって、認められないケースも多いです。本人や家族が内容を理解できても、第三者や手続き先が明確に判断できなければ、無効になってしまうので注意が必要です。

その1例を挙げましょう。

「●●市のマンションは長男にあげる」と遺言書に書かれてあり、家族にはその記述で意味が通じたとしましょう。しかし、法務局では「この内容では登記はできません」と申請が通らないことがあります。不動産であれば「●●市■■町×番地×番×の△△△マンション○○○号室」などと、地番や家屋番号まで明記し、誰が見ても特定できるように記載する必要があるのです。登記簿謄本の記載通りに明記するとよいでしょう。

自筆証書遺言書にはこうしたリスクがあるので、私のところに相談に来られたお客様には、多少の費用がかかったとしても公正証書遺言書を作成したほうがいいとお伝えしています。

ちなみに、相続に関連した生前対策としては、「家族信託」もあります。家族信託とは、財産を持っている本人が高齢となり、認知症などで意思決定がままならない状況になったとしても、第三者である受託者が信託財産を管理・運用して、その利益を受益者(本人や子どもなど)が受け取れるようにする仕組みです。

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