日本人の英語が海外で今一つ伝わらない根本原因 国際情勢をinternational situationと訳す人の盲点

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さて、前出の例ではレーガン元大統領の英語から考えましたが、それを今度は日本語から考えたらどうなるでしょう。

日本語の特徴の1つが漢語です。例えば「国際情勢」。これを英語でといわれたら、ほとんどの人がinternational situationというはずです。あたかも決まった訳語のように。

しかし、同じ意味で‘what's going on in the world’ということもできます。名詞ではありませんが、これもよく使われる表現です。直訳すると「世界で今起こっていること」ですが、まさにそれが「国際情勢」です。ここでも「選挙公約」の例と同じ図式ができます。

(出所:『伝わる英語表現法』)

逐語的な単語英語の発送と決別する

ここで強調したいのは、確かに「国際情勢」はinternational situationに違いありませんが、それをあえて‘what's going on in the world’と言いたいということです。それは、国際情勢=international situationという逐語的な単語英語、単語文化の発想と決別したいからです。

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使ううえで、何一つ共通点のない日本語と英語の単語を名詞でそろえてみても、それにどれほどの意味があるでしょうか。むしろ、そのために英語がむずかしくなっていることに気がついてほしいのです。

international situationとwhat's going on in the worldの違いは、後者は完全なセンテンスではありませんが動詞があり、したがって時制があることです。英語は動詞があってはじめて言葉が活性化するのです。動詞は全身に血液を送る心臓のようなものです。動詞が入ることによって語句に血が通って生きてきますから、いろいろな形に変化します。

例えば、what was going on at that timeとすれば「当時の状況」ということになるし、“What's going on here?”と言えば「みんな、何やってるの」と、目の前の様子に目を丸くして発する言葉になります。

時制や状況in the world、at that time、hereなどを自分で使いわけることによって、表現の範囲が大きく拡がります。それに比べてinternational situationという、私たちには一番わかりやすいと思っていた言葉は、じつは、使う上で、硬くて、冷たくて一番扱いにくいのです。それは、campaign pledges(選挙公約)と同じことです。

そこで私たちとしてすべきことは、上の2つの図式で示したように、対角線で考える発想に慣れることです。それにはどうしたらよいのでしょうか。それはこの後のお楽しみとします。

後編:英語が下手な人は「主語の大切さ」がわかってない

長部 三郎 通訳者

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おさべ さぶろう / Saburo Osabe

1934年新潟県長岡市生まれ。1959年東京大学教養学科(国際関係論)卒業、アメリカ国務省言語部勤務(日本語通訳担当)、日本ペンクラブ事務局長などを経て、桐蔭横浜大学工学部教授などを歴任

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