「ミスに厳しい職場ほどミスが多い」のはなぜか 対立ない人間関係には「心理的安全性」が重要
エドモンドソンは、大学病院の看護チームを対象とした実験を行い、「犯人捜し」が成果にどのように結びつくかを検証しました。
ある看護チームは規律を非常に重視し、看護師長はミスが起きるたびに看護師を呼び出し、厳しく問いただしていました。そのチームでは看護師からのミス報告がほぼなかったため、調査開始当初は、この行動は正しいと考えられていました。
しかし、詳しく調査してみると実態は異なることがわかってきました。ミスの報告は少なかったですが、実際には多くのミスを犯していたのです。
一方、やさしいチームは逆でした。ミスの報告は多かったですが、実際に犯したミスは厳しいチームよりも少なかったのです。
人は怒りの感情から、問題が起きると犯人を捜してしまう本能があります。責任者になるとその傾向はさらに強まり、問題の経緯や真因を探って学習することよりも、誰の責任かを追及することに気をとられてしまうのです。
多くの管理職に浸透している「非難や懲罰には規律を正す効果がある」という常識が、場の心理的安全性を大きく毀損させる原因となっているのです。
成果へのプレッシャーがもたらす問題
リーダーが「犯人捜し」をして心理的安全性を壊してしまう背景には、「責任感の罠」の存在も関係しているといえるでしょう。これについては「内的動機づけ」を研究していたエドワード・デシによる、ある実験を紹介します。
成果へのプレッシャーが、教師の行動をどのように変容させるのかを確かめるために、デシは「教育の場」をつくる実験を考案しました。教師役の被験者には、あらかじめすべての問題のヒントと回答を伝え、問題を練習する十分な時間も与えました。そのうえで、教師役を2つのグループにわけ、1つのグループだけに「教師として、生徒に高い水準の成績を収めさせることがあなたの責任ですからね」というメッセージを付与したのです。
結果は驚くべきものでした。
高い水準の成績を求められた被験者は、何も伝えられなかったグループと比較して、話す時間が2倍、命令的な話(すべき、しなくちゃなどを含む言葉)が3倍、管理的な話も3倍していたのです。
圧力をかけられるほど、教師は管理的になったのです。そのことが生徒の内発的動機づけ、創造性、概念的理解を低下させていました。成果を求められるほど成果を落としてしまう。「責任感の罠」が皮肉なパラドックスを生み出していたのです。
リーダーの役割を経験した人で、この罠にはまらなかった人は皆無なのではないでしょうか。
特にまじめな人ほど陥りやすい、人間として当たり前の思考回路です。リーダーが厳しすぎたり、コントロール欲求を強めたりして場の「心理的安全性」を壊してしまうのは、その人のキャラクターの問題ではないのです。リーダーは組織に貢献しようという思いで、よかれと思って管理的な行動を強めているのです。
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