「社員150人」超えで効率性や結束力が下がる理由 人類の進化から「ヒトの思考と行動」を読み解く

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ところで、ベンチャー企業などが成長し、ダンバー数(150人)を超えるような規模になる際には組織としての脱皮が必要になります。1つはハード面の整備。それまで、なんとなく接ぎ木のようにしてできあがっていた社内のルールを、より精緻化することが必要になります。いろいろな社員が増えてくるので、評価や報酬、役割定義といった人事制度をより性悪説に基づいたものにつくり変えたり、部門の業績をよりくわしく把握するために部門会計システムを導入したり、さまざまなルールによる統制を強化します。

しかし、それでは社員の気持ちはだんだん離れてしまいます。「自由に楽しく仕事していたのに、なんだかルールに縛られて何のためにこの会社で働いているのかわからない。チームの仲間と仕事すること自体は面白いんだけど」という声が聞かれるようになります。

集団が150人を超える

そこでソフト面の脱皮も必要になります。それまで創業時のエネルギーが社内に伝わって、社員もそれを肌で感じ同じ方向を向いていたのが、新しい社員も増えてそうもいかなくなってくる。

そこで、あらためて会社の意味を確認し、明文化が必要になります。

たとえば、幹部が合宿して企業ビジョンや「わが社のバリュー」をつくったり、それをリトリート(都会から離れた、隠れ家的な場所)などで全社員に理解してもらうイベントを開いたり、バラバラになりがちな気持ちをつなぐ「何か」を創出する必要に迫られます。つくるのは概念であり、いわば「幻想」なのです。ですが、幻想だけに社員が共感さえできればどれだけ社員が増えても接着剤となりえます。この段階の経営者には、そうした幻想をつくり共感を得る能力が求められます。

人類も同じでした。目に見えないものを表現し共有するために、言語が使われるようになりました。神話や信仰、掟といった抽象概念を人類は獲得し集団内で共有するようになって、はじめてダンバー数の150人を超える集団を形成することができるようになったのです。

150人を超えてしまうと、人が多すぎて噂話だけでは信頼できるかどうかわからなくなります。しかし他人であっても、同じ信仰をもつ仲間であると認識できれば協力することもできます。ある概念を共有することで、相互依存関係を結べるようになったため、一気に集団は拡大していきました。

複数の集団を重複構造で束ねる「組織」もこうして発生しました。このように人類は、遺伝的進化のみならず文化的進化をも遂げてきました。最も重要なのは、人類は集団なくして生き残ることはできないということです。それゆえ、集団内での関係性がとても大切になります。関係性を良好に保つために、言語を使って噂話をしたり、視線を使って意図を読み取ったり発したりして、コミュニケーションをとるようになります。

そして、さらにより強くなるために集団の規模を大きくしようとしました。そこで使ったのが言語による共同幻想です。モノではなく、概念で多くの人々をつなぐ技術を進化させました。それが現在の組織の起源なのです。

福澤 英弘 株式会社アダット代表取締役

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ふくざわ ひでひろ / HIdehiro Fukuzawa

上智大学経済学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。富士銀行、コーポレイト ディレクションを経て、グロービスの設立に参加。創業時より企業向け人材・組織開発部門の責任者を務めた後、2007年に株式会社アダットを設立。主に大手企業に対して、戦略意図に沿った組織能力を開発することを支援。主な著書に『人材開発マネジメントブック』(日本経済新聞出版社)、『図解で学ぶビジネス理論 戦略編』(日本能率協会マネジメントセンター)、『定量分析実践講座』(ファーストプレス)などがある。

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