コロナ禍で「国内外の格差」が増幅した根本理由 「人材投資」の充実こそが格差是正のカギ!

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コロナ禍が長引くほど、教育機会の差も大きくなる。登校が制限されている間、オンライン教育や学習塾などで学習を補える度合いは中・高所得者の子弟の方が高い。低所得者の中には、学習塾の費用を負担できなかったり、通信環境の問題などからオンライン教育が受けられなかったりする児童・生徒もいる。グローバルにみると、総じて低所得国ではオンライン教育の環境が整っておらず、休校が教育水準の低下につながりかねない。そして、教育格差の拡大は、将来の所得格差の固定化をもたらす。

■問われる格差解消への取り組み

このように、今回のパンデミックはさまざまな経路を通じて、もともとあった国家間および各国内の経済格差の問題をより深刻なものにした。

国家間の格差については、まずは低所得国のワクチン確保を進めることが重要であろう。世界保健機関(WHO)主導で、2021年初からワクチンを共同購入して低所得国に行きわたらせる国際的な取り組み(コバックス・ファシリティ)をスタートしたが、資金やワクチンの不足で進捗が遅れている。すでに接種が進んでいる先進国のコミットメント強化などによって低所得国へのワクチン普及を進め、国家間の格差拡大を抑制することが国際社会には求められる。オンライン環境の有無による教育機会の格差についても、先進国からの支援などを通じて縮小に努めるべきであろう。

富裕層への「富の集中」については、アメリカではバイデン政権が所得税率引き上げなど、富裕層向けの増税を計画している。中国も「共同富裕」をスローガンに、中間所得層を育成することを通じて、格差の縮小を目指す方針を示すなど、多くの国で格差是正に取り組む動きがみられる。こうした各国ごとの取り組みに加えて、タックスヘイブンへの規制強化で税逃れを防止するなど、国際的な協調を通じて、不均衡を徐々に解消していくことも重要である。

必要なのは人材投資の充実

日本でも富裕層への資産集中の傾向はみられるが、今のところアメリカほど顕著ではない。一方で、コロナ禍前から指摘されていたのが相対的貧困率(世帯所得の中央値の半分に満たない世帯に属する人の割合)の高さである。日本の相対的貧困率は2018年時点で15.7%とG7諸国の中で2番目に高い。特に、ひとり親世帯の貧困率は5割を超えていたが、前述の通り、ひとり親世帯へのコロナショックによるダメージは大きかったとみられ、支援の拡充が急務である。

格差是正を目指す国際的潮流の中で、10月に就任した岸田首相も、分配機能を強化して格差を是正し、中間層を復活させる「令和版所得倍増」を提唱した。さらに、11月には事業規模79兆円、財政支出56兆円に及ぶ経済対策「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を策定し、子育て世帯を対象にした10万円給付、看護師・保育士・介護職員の3%賃上げなどが盛り込まれた。しかし、中長期的な視点で格差を是正していくには、こうした一度限りの施策では不十分である。

中長期的に日本の貧困率を引き下げるためには、非正規労働者の待遇改善が重要である。正社員と非正規労働者の賃金格差が大きいことに加え、景気悪化時は非正規労働者の方が職を失いやすい。シングルマザーの多くが非正規労働者だったことも、コロナ禍でひとり親世帯が苦しむ要因となった。非正規労働者の地位の不安定さ、賃金水準の低さは、リーマンショック直後に社会問題となって以来、継続している課題でもある。同一労働・同一賃金の徹底、最低賃金の引き上げ等により、非正規労働者の待遇改善を図っていくことが政府、企業の双方に求められよう。

加えて、人材への投資を拡充して生産性を引き上げ、分配の原資を増やす視点も重要だ。日本では、企業による従業員の訓練費用が継続的に低下しているほか、職業訓練など政府による積極的な労働政策への支出規模も国際的にみて小さい。こうした人材への投資を充実させて労働生産性の伸びを着実に高めていくことこそが、「成長と分配の好循環」を実現するカギとなるだろう。

山本 康雄 みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席エコノミスト

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やまもと やすお / Yasuo Yamamoto

1969年生まれ。東京大学卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。日本経済研究センター、三和総合研究所などを経て、2005年にみずほ総合研究所入社。世界経済・日本経済の短期予測に主に従事し、2014~2019年はロンドン事務所長としてブレグジットなどを調査。2021年より現職。

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