マガジンの語源「元々は雑誌ではない」という事実 銃の弾倉やカメラのカートリッジもそう呼ばれる

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正解は(C)の倉庫です。

アラビア語の「倉庫」から銃や映写機の「マガジン」へ

magazineという単語はアラビア語でhazana「蓄える」から派生したmahazin「倉庫」「貯蔵庫」からきています。それがイタリア語のmagazzino、フランス語のmagasinなどを経て英語になりました。

最初は単に物を保管しておく場所・建物という意味だったのですが、次第に「弾薬や武器など軍需品の倉庫」というニュアンスが強くなりました。例えばpowder magazineと言えば「火薬庫」のことです。powderは「粉」ですが、「火薬」という意味もあるのです。

やがて自動小銃などに補充用の銃弾を装填しておく「弾倉」の意味になり、さらにカメラや映写機にフィルムを瞬時にはめ込む「カートリッジ」もmagazineと呼ばれるようになりました。

「倉庫」という意味のmagazineに「雑誌」という新しい意味が加わったのは18世紀のことでした。1731年に“The Gentleman’s Magazine”というタイトルの雑誌が発行されたのです。キャッチコピーは“A Monthly Collection to treasure up, as in a Magazine, the most remarkable Pieces”「もっとも注目すべき記事の数々を『倉庫』のように記憶にとどめる月刊コレクション」。興味深い物語や知識、情報などが数多く収載された刊行物を“知識の倉庫”になぞらえたのです。

発行人はエドワード・ケイヴという商売人。知識人が興味を持つような読み物を集めて定期的に発行したらおもしろいと考え、このアイディアをロンドンの出版社や書店などに売り込んだのですが、ことごとく断られてしまいます。しかたなく自分自身で発行したところ売れに売れて巨万の富を築いたのです。

この雑誌は1922年まで190年の間、一度も途切れることなく発行が続きました。サミュエル・ジョンソンという文学者もこの雑誌への寄稿がきっかけで世に出て、“文壇の大御所”と呼ばれるまでになりました。

magazineにもいろいろな種類が

日本で初めて「雑誌」という言葉が使われたのは、1867(慶応3)年に洋学者の柳河春三が創刊した「西洋雑誌」。オランダの雑誌の翻訳版で、西洋事情や最先端の科学技術などを紹介したものでした。

『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

一口にmagazineと言っても、発行形態によっていろいろな種類があります。日刊を除く一般的な「定期刊行物」のことはperiodicalと言います。毎日発行の「日刊」がdaily、「週刊」はweekly、「月刊」がmonthlyです。1年に4回発行の「季刊」はquarterly、「年刊」はyearlyあるいはannualとなります。

では同じ日本語の“発音”ですが、「年鑑」は何と言うかご存じでしょうか? これはyearbookあるいはalmanacと言います。

magazineの一語からでも、英語の語彙や教養の世界が大きく広がります。「英語の語源」への興味は尽きることがありません。

前回:カリキュラムが教育と元々無関係の言葉だった訳(2021年12月28日配信)

小泉 牧夫 英語表現研究家、英語書籍・雑誌編集者

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こいずみ まきお / Makio Koizumi

1953年東京都生まれ。1977年青山学院大学卒業、NHK出版に入社。編集長として大杉正明・杉田敏・遠山顕等が講師を務めるNHK英語テキストの編集・統括を行う。また、英語力を生かし海外担当として世界中のブックフェアを駆け回り各国の出版社との版権交渉も行った。企画・編集した単行本は200冊に及ぶ。現在、英語表現研究家として活躍。著書に『世にもおもしろい英語 あなたの知識と感性の領域を広げる英語表現』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(共にIBCパブリッシング)がある。エンタテインメントとしての英語を追求しながら、書籍や雑誌記事を執筆し講演活動も行っている。

https://makiotravel.hateblo.jp/about

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