箱根登山ケーブルカー、どこで運転しているのか 開業100年の歴史、一般的な鉄道と何が違う?

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車両先頭の乗務員室にいるのは運転士でなく車掌で、前方の安全監視やドアの開閉などのために乗務している。途中駅では左右両側のドアを開け閉めする。開けるときは同時だが、閉めるときは安全を確認して乗降が終わった側のドアを先に操作する。社内では、早雲山駅のロープウェー乗り場がある北側を「ロープ側」、南側を「美術館側」と呼ぶそうだ。

車内はケーブルカーではめずらしい窓を背にした“ロングシート”が並ぶ。勾配が比較的緩やかで車内の階段の間隔が広くできるために実現できた。「箱根登山電車は日本一の急勾配を走りますが、箱根登山ケーブルカーは反対にいちばん勾配が緩やかなのです」(髙田さん)。大勢の乗客や大きな荷物で混雑しやすい箱根ならではの事情に合わせたつくりというわけだ。

乗客の目に触れる機会が少ない部分にも特徴がある。両側の車輪は車軸で結ばれておらず、形状が左右で異なる。行き違いの複線部では分岐箇所のレールにロープを通す切れ目があるため、内側になる車輪はローラーのような平車輪(ひらしゃりん)、レールに切れ目がない外側は両フランジの溝車輪となっている。

車両側に動力はないが、無線機やドアの開け閉め、冷暖房などで使用する電気のために架線とパンタグラフがある。ロープが切れた場合などの非常時に車輪の回転力でレールを挟んで停車させる自動ブレーキ装置を備える。

「運転室」はどこにある?

一方、「運転室」やモーター、制御装置といった設備は山上の早雲山駅にある。運転士はモニターを見ながらケーブルカーの運転操作をする。発車の条件がそろい、車掌からの合図を受けてボタンを押すと、自動運転で加減速する仕組みとなっている。車両の検査は設備が整った早雲山駅で実施しており、運行終了時には1号車と2号車が日替わりで同駅にとどまるようになっている。

早雲山駅にある運転室(記者撮影)
モーターや原動滑車がある機械室。左上は運転室の窓(記者撮影)

機械室にあるモーターは360V・230kwの交流誘導電動機で、主機と補機のどちらかを使う。車両が動くときには巨大な原動滑車が回転する。制御装置はVVVFインバーター制御で、こちらも2系統あり、火山ガスの影響を避けるため別室の電気室に置かれている。

髙田さんは「運転室に制御装置のある電気室、台車の代わりにモーターと滑車の機械室、それぞれ離れた場所にありますが、システム的には1つの電車ととらえることができます」と話す。

早雲山駅の駅舎も車両・巻上設備が刷新した2020年にリニューアル。足湯につかりながら景色を眺められるテラスができた。ホームにはエレベーターと、ケーブルカーでは異例の昇降式ホーム柵を設置した。

箱根観光で定番の大涌谷や芦ノ湖を前に、観光客のはやる気持ちもわからなくはない。が、その途中のケーブルカーがどう動いているのか、知っていれば旅の楽しみが増えるのは間違いない。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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