欧州の金融政策正常化を阻むコロナ感染再拡大 今後1年間はドル>ユーロ>円の強弱関係は不変

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為替市場の観点からは、ECBとFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策の格差拡大とそれに応じたユーロ安・ドル高を予想することになる。欧州のような感染拡大に直面していないアメリカではFRBが淡々と正常化プロセスを推し進めており、インフレ高進を念頭に量的緩和の段階的縮小(テーパリング)のペース加速まで期待される状況にある。

インフレが消費者心理を蝕み始めているアメリカ経済の状況を踏まえれば、続投が決まったパウエル議長も、正常化プロセスにブレーキをかけるという行為は政治的に難しいのではないかと考えられる。こうなってくると金利差面からユーロドル相場の下押しが正当化されやすくなり、実際に足元では年初来安値の更新が続いている。

今後、本当にECBがPEPPの延長・存続に関心を示し、当面の緩和継続を強調するのであれば2022年1~3月期に1ドル1.10ユーロを割り込むというリスクシナリオも検討する必要がある。現状、名目実効ベースで見たユーロ相場は依然として高水準にあることから調整余地は相応に大きなものがある。もっとも、それでも正常化プロセスに関し、ECBが日銀よりも劣後することはありえないだろうから、主要3通貨(ドル・ユーロ・円)における円の最弱という立場は不変であろう。

感染再拡大がアメリカに波及するケースでは?

また、感染再拡大がアメリカに及ぶというケースもリスクとして懸念される。そうなればインフレが社会問題化しつつあるアメリカの様子を踏まえ、FRBはECB以上に厄介な状況に陥る。感染拡大で社会不安が増大している最中、金融政策の正常化を進めるというのはやはり難しいだろう。その際は供給制約によるインフレは緩和継続で加速することはないと弁明するはずである。FRBがテーパリングや利上げを棚上げし、実体経済を支えるというポーズを取れば、一時的なドル安は考えられる。 

しかし、感染はいずれ収束するものであり、その後の正常化ペースでECBや日銀がFRBに勝ることはあるまい。とすれば、仮に米国の感染再拡大でFRBの正常化やドル高が揺らぐことがあったとしても、それはドル買いの「押し目」を提供する材料と整理したい。今後1年間も変わらず「ドル>ユーロ>円」の強弱関係は大きく変わらないと予想したい。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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